31.恋着【Side:十六夜 深月】

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 歯磨きをして布団に潜り込んだ僕は、また頭まで布団を被って自分を守る小さな暗闇の中で身を縮めて(うずくま)った。  知ってはいけない気持ちを知ってしまった――。  〝好きな人がいる〟と告げて境界線を引こうとした将継(まさつぐ)さんのことが好きだなんて、いまさら口に出してはいけない言葉だ。  そしてその〝好きな人〟である先生は、僕が恋着(れんちゃく)を抱いてくれていたら嬉しいと言った。 (僕の〝好きな人〟は一体誰だろう……)  将継さんが好きだ。  長年(した)ってきた先生も好きだ。  でも、〝恋〟だと考えると完全に先生は今はその枠から外れてしまっていて、将継さんだけが心の中に(とも)っている気がするけれど。  こんな曖昧な想いを誠実な将継さんに伝えちゃいけない。  だけど――。  いつもみたいに自分の気持ちなんか押し殺せばいいだけなのに、焦がれそうなくらい胸が痛くて、瞳の根っこが熱くて今にも頬が濡れそうなのは何でだろう――。 ***  いつの間にか眠っていたみたいで、目が覚めると時計の針はもう十七時(ごじ)を過ぎていた。  遅くなるとは言っていたけれど、本当に石矢(いしや)さん絡みで何か身に危険が及ぶようなことはないだろうかと、早い日没で部屋が暗いせいかたちまち不安が押し寄せる。 (メッセ送ってみてもいいかな……? 忙しいかな……?)  今朝から悩んでは止め、悩んでは止めを繰り返していたスマートフォンを手に取りメッセージアプリで文章を打ち込んでみる。 『将継さん、お仕事お疲れ様です。ちゃんと帰ってきてくれますよね? お仕事中にごめんなさい。待ってます。ずっと』  絵文字も顔文字もないそんな文章を送る僕は本当に素っ気なくて将継さんにはつまらないだろうか……なんて考えたけれど、指が勝手に〝送信〟をタップしていた。  〝既読〟の表示は付かなかった。 (仕事中だから見られないだけだよね? 大丈夫だよね?)  胸が苦しいよ、将継さん――。
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