32.深月を騙し通せる強さ【Side:長谷川 将継】

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「――ホント、お前から話に聞いてた通りのやんちゃな坊やだな」  石矢の肩を両の手で支えたまま、相良(さがら)がククッと笑うから。  私はそれに「まぁな。――けど、まぁ、普段は猫被ってるみたいなんだがな」とうなずいて、「なぁ、石矢(いしや)よ」と声の調子をワントーン落とした。  もともと背後から相良に押さえられていて逃げようがないのだけれど。  私は石矢の眼前に、今日医者でもらったばかりの深月(みづき)の診断書を突き付けると、静かに問い掛けた。 「の可愛い深月に、こんな酷いことをしたのはお前で間違いないな?」  診断書と一緒に、スマートフォンを操作して、赤黒く変色した深月の腕や背中や腹部の(あざ)の画像を数枚突き付けたら、石矢が物凄く不満気に下唇を噛んだのが分かった。 「あいつ! 将継(まさつぐ)さんに告げ口したんだ。……おとなしそうな顔しといて……ホント食えない最低なやつ!」  その言葉に、私はこらえていたものが一気に噴出して――。  思わず石矢の胸ぐらを掴んで(こぶし)を振り上げたのだけれど。 「長谷川(はせがわ)」  途端、石矢の背後から低められた声音で相良にジロリと睨みつけられて、私は振り被った拳を石矢に下ろせないままに彼から手を離すと、怒りに震える右手首を左手で掴むことで何とか衝動をこらえた。 「――よく我慢したな。そう言うのは俺の仕事だ。お前は手を汚さなくていい」  私を見詰めてフッと優しく微笑むと、相良が「さて」とつぶやいて立ち上がると、石矢を突き飛ばすようにして転がした。
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