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「なっ、なんだよ、お前!」
手が後ろ手に縛られたままですぐには起き上がれない石矢が、すぐそばから自分を見下ろす相良を睨み付けて懸命に噛み付く。
そんな彼の脇腹を無言で一発蹴り上げると、痛みに身体を丸めて咳き込む石矢を見下ろして、相良が嫣然と微笑んだ。
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。俺はキミの会社の社長――長谷川将継くんの腐れ縁で葛西組で若頭張ってる相良京介ってんだ。長谷川には子供の頃に随分世話ンなった恩があってね、彼の会社で問題が起こった時は俺が手助けすることにしてるんだよ」
「……意味、分かんね……んだけど……っ」
石矢は痛みに顔を歪ませたまま途切れ途切れで抗議しながら相良を睨み付けてから、私の方へツイッと視線を動かすと、縋るような目で私を見上げてくる。
「将継さっ。お、俺っ、深月さんに誘惑さ、れたんっすよっ。将継さ……に色目使うのやめ、るなら自分を好きにしていいって。俺……、将継さん以外と……どうこうなる気なかったから断ったんっすけど……ホン、ト……しつこくて。ついカッとなって突、き飛ばしてしま……いました。それでもしつこく取り縋ってくるから……仕方なく……!」
この期に及んでそんな嘘をついて……さらに深月を貶めようとしてくる石矢に心底嫌気がさして。
左手で押さえつけたままの右手にグッと力を込めたら、相良が私の怒りを逃すみたいに石矢の鳩尾をグッと踏みつけた。
「……っ!」
途端石矢が声にならない悲鳴を上げて――。
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