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相良は今すぐ石矢の命をどうこうするつもりはないと言った。
使えると判断しさえすれば、きっと大事に育ててもくれるだろう。
いい意味でも悪い意味でも、相良は約束を守る男だったから。
石矢が心を入れ替えて相良の元で務めるなら、恐らく生きていくための道だけは拓けるはずだ。
(真っ当な社会復帰は無理だろうがな……)
本当はこうなることを未然に防ぎたかったと言うのが本音だ。
だが石矢は実際、私の大事な人を相手に傷害事件を起こしたのだ。
暴行を受けた深月の診断書だって取ってある。
今、この場でなされた石矢の胸糞の悪い告白も、しっかりボイスレコーダーに録音してある。
石矢恭司を懲戒解雇するのは、そんなに難しいことじゃないだろう。
反省するつもりがない人間に掛けてやれるほどの温情なんて、残念ながら私は持ち合わせていないのだ。
ただ、深月が真相を知ったら悲しむだろうから……。
深月にだけは絶対に真実を知られてはいけない、と思った。
一人部屋を後にしながらふと視線を落としたスマートフォンには、いつの間に届いたんだろう?
深月からメッセージがきていて。
『将継さん、お仕事お疲れ様です。ちゃんと帰ってきてくれますよね? お仕事中にごめんなさい。待ってます。ずっと』
それに視線を落としながら、私は亡き妻に願わずにはいられなかった。
なぁ、咲江。
こんな汚い私の心を、どうか綺麗な心の深月にだけは知られずに済むように……。
深月を上手に騙し通せる強さを私に与えてくれないか?
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