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33.二人がいい【Side:十六夜 深月】
十七時過ぎに送ったメッセージに返信があったのは、時計の針がもうすぐ十九時半を回ろうかという頃だった。
落ち着かない気持ちでリビングの座卓の前に腰掛けてスマートフォンと睨めっこしていたら、手指の中で短く振動してディスプレイにポップアップが表示された。
『深月、待たせてすまない。これから帰るから。いい子で待ってろな?』
そのメッセージを読んで将継さんの身に危険はなかったのだと一気に身体が脱力して、座卓に突っ伏して思わず瞳に熱を蓄えそうになる。
『将継さん。お仕事お疲れ様です。お仕事中にメッセージ送ってすみませんでした。待ってます』
そう返信するとすぐに『構わない。むしろ嬉しかったぞ? じゃあ車に乗るから』と、返事が返ってきてホッと胸を撫で下ろした。
(でも何だかドキドキする……将継さんにどんな顔して会えばいいのかわかんない……)
知ってはいけなかった将継さんへの恋情を先生によって確信させられてしまった今、僕はこれから彼とどう接したら良いんだろう。
〝好き〟だなんて、もう言ってはいけない言葉だから。
でも――。
心の中はこんなにも将継さんでいっぱいで、今も早く彼が帰って来ないだろうかと、焦がれて灼けつきそうで仕方がなくて。
(どうしよう……。こんな気持ち知らない。こんなにそばにいて欲しいと思った人、今までいなかった……)
会いたい、だけど会うのが怖い。
今までの僕でちゃんといられるだろうか?
気持ちは口をついて飛び出してしまわないだろうか?
恩人として将継さんを慕っていた時のように振る舞えるだろうか?
口数は少ない僕だけれども、肝心なところでは口が軽く滑ってしまうのも僕の短所だってわかっている。
石矢さんから受けた暴行を黙っていようと心に刻んだはずなのに、将継さんの温かさで簡単に綻んでしまったように。
彼を前にすると僕は容易く懐柔されてしまう。
だけど、それが狂おしいほど甘くて、愛おしい感情だったなんて、今になって初めて気付いてしまった。
――怖いけど、やっぱ将継さんに早く会いたい……。
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