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表面を掠めただけの口付けの後で、じっと僕を見つめた将継さんは、「深月……」と甘い声で名前を呼んで、再び唇を寄せてきた。
「……ん、まさつ……さ……」
三度目の口付けは、ぼうっと頭が霞がかっている間にぬめりとした彼の舌が唇を割って歯列を辿り、条件反射で開いた咥内にまで侵入するものだった。
熱い舌が口腔を這い回り、ゆっくり解されていく。
頬の粘膜を余すところなく舐められて、舌根の奥を突いたかと思えば、舌先を歯で甘噛みされて吸い付かれ少しだけ引っ張られる。
身の内に潜む火種を焚きつけるような情熱的なキスに、僕は酩酊したように、ただたどしく彼を受け入れていたのだけれど。
やがて肺の酸素が足りなくなったみたいに胸がつかえて、「うっ……ぅ」と小さく咽ると、将継さんの唇がそっと離れた。
「息継ぎのタイミング、わかるか?」
僕はまなじりを少しだけ滲ませてフルフルと首を横に振りながら大きく息を吸って吐き出すと、そのタイミングを計ったかのように再び唇を塞がれた。
口の中に小さな細波を感じて、将継さんの唾液を注ぎ込まれたのだと気付き、僕は躊躇いなくそれを飲み込む。
(甘い……)
睦み合う舌は際限がなく、今度は将継さんが僕の唾液を呼吸ごと啜り取るかのように吸引し、心ごと引っ張られていくようで脳まで掻き乱された。
口端から溢れ出した雫が顎を伝って、ぴちゃっと水音を立てて唇を放した将継さんが、それを首筋から舌で辿って掬い上げる。
まだ吐息が触れる距離で、将継さんはどこか辛そうな絞り出すような声で「深月……ごめんな。なんか救われた。すっげぇ愛してる」と囁いた。
唇にかかった甘い微風に全身が痺れたのは、彼を愛おしいと気付いてしまっている今が、もどかしいくらい苦しいからだということは容易に推察出来た。
(僕で救えるなら……将継さんに、ずっと触れてたい……)
――片時も離れたくないだなんて、許されるかな……。
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