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いつまで抱きしめられていただろう。
夢の中にいるような長い長い時間は、将継さんがそっと腕を放したことで甘い余韻を残して終わりを告げた。
「ずーっと抱きしめてぇけど、夕飯どうする? 深月が心配してくれてっから早く帰んねぇとって思ってなんも買ってきてねぇんだわ。どっか食いに行くか?」
「えっ! ……で、でも、そんなの贅沢です! それに――」
思わず言葉を濁すと将継さんは不思議そうに僕の顔を覗き込んでくるから、一体自分はなんてことを言おうとしてしまったんだろうと、恥ずかしすぎて耳まで熱くなって俯いてしまう。
(二人がいい……なんて言えるわけない……)
すると将継さんは僕の耳朶に口付けて「それに……何? ちゃんと言えよ、深月」と、今度は耳孔に舌を挿し込んでくるから思わず「んっ……」と吐息が漏れる。
「な、何でもない……です……」
「いーや、何でもねぇって顔じゃねぇよな? 深月のワガママなら何でも聞いてやりてぇから、ちゃんと教えてくんね?」
なんて言いながら、額に、まぶたに、鼻先に、頬に、次々と柔らかなキスの雨が降ってきて、言うまで止めないのだと言外に優しい唇が訴えてくるけれど。
「あ、あの……本当に何でも――」
尚も抵抗してみると、また先程の交接の余韻で赤くぽってり腫れていそうな唇を塞がれるから、一度知ってしまった口唇での愛撫は身体に火が点きそうで、慌てて将継さんの胸を押しやる。
唇を剥がした将継さんはイタズラっぽい指先で僕の顎下をくすぐるから、思わず小さく笑い声を立ててしまうと嬉しそうに色素の薄い瞳を眇めた。
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