695人が本棚に入れています
本棚に追加
夜目に慣れてきた瞳で辺りを見渡すと、見たこともない日本家屋然とした和室のリビングだと思われるそこに僕は居た。
口の中が何だか酸っぱい。
それに、いつの間にかスウェットの上下を着ているし、シャワーを浴びた記憶もないのに身体がサッパリしている。
え? まさか酔っ払って、意識もない内に、どこぞの女の子の部屋にでも転がり込んでしまった?
いや、仮にどこぞの女の子の部屋に転がり込んでしまったとしても僕は機能不全だ。
何か事に及んでしまったという心配がないのだけは幸いだ。
とりあえず、布団から脱出を試みる。
足取りがフラフラしたけれど、このままここにいてはいけないことだけはわかる。
(どうしよう……。ここ、どこ? 帰らなきゃ……)
でも――。
少なくとも、いくらコミュニケーション能力が皆無な僕だって、誰かに介抱されたのだとしたら最低限のお礼は言わなくちゃいけない。
壁に掛けられている、この空間によく似合う木製のフレームの時計の針は三時を少し過ぎている。真夜中だろう。
まずは、この家の主を確認しなくては。
覚束ない足取りで、眼前を見据えると襖で仕切られている二部屋が見えた。
そっと一室を開けてみたけれど、そこは無人だったので静かに襖を閉めて、もう一部屋の襖を開けてみる。
ドキリと心臓が飛び出しそうに動悸を打つ。
男性だと思われるシルエットの人間が真っ暗闇の中で布団に包まっていた。
(え? 誰……?)
最初のコメントを投稿しよう!