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34.ひとりじゃないから【Side:長谷川 将継】
「……二人が、いいです。僕と将継さんと……二人がいいです。もう、僕の知らない将継さんを知っている人に……会いたくない……」
深月からそんな言葉を聞かされた時、正直夢じゃないかと思ってしまった。
深月は基本的に口下手だ。
中でも自分の要望を口にするのが特に苦手。
それは、今まで彼が自分の欲しいものに手を伸ばすことを許されない環境にあったことを彷彿とさせられて――。
漠然と……ではあるけれど、私のそばでくらい思い切りワガママを言わせてやりたいなと思っていた。
だけど……。
その要求が自分絡みで……それも、どこか他者への嫉妬心すら感じさせられるものだなんて、誰が想像出来ただろう?
深月はどこまで私を翻弄すれば気が済むんだろうか。
普通に考えても堪らない状況なのだが、それに加えて深月本人にはあざとさの欠片もないというのが、思い切り性質が悪い。
無自覚爆弾ほど手に負えないものはないのだと、どうやったら深月に分からせてやれるだろうか。
「なぁ、深月――」
呼び掛ける声が情欲を含んで少しだけ艶めいてしまったのは、石矢を断罪した時の仄暗い高揚感が、私の身体の奥底に熾火みたいに残ったままだったからだろう。
どんな理由をこねくり回そうとも、自分が紛れもなく極限状態だったのだと自覚させられて。
昔からそうなんだが、私は自分の心に負荷を掛け過ぎると、反動で性欲が高まる傾向にある。
それで咲江を何度抱きつぶしたことか――。
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