34.ひとりじゃないから【Side:長谷川 将継】

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 だが、あれは――。  咲江(さきえ)も私のことを愛してくれていて……それこそ想いが通じ合っていたからこそ、私の情欲――仕打ち――を受け入れてくれていたんだと思う。  だが深月(みづき)はどうだ?  彼は……咲江とは違うだろ。  そう思い至った途端、私は自分の愛欲(がんぼう)に慌ててブレーキを掛けた。 「――あんまし、(あお)んないでくんねぇーか?」  ――ああ、ダメだ。  深月を抱きたい気持ちを懸命に抑圧しているというのに。  心の中で、激しく警鐘(けいしょう)が鳴っている。  深月にいやらしく触れているわけでもないのに、興奮して(たが)が外れた時にしか出ないはずの〝俺〟が無意識に口を()いて出てしまうとか、危険過ぎるだろ。 (ヤバイな。このままだとマジで抑えが利かなくなっちまう)  私は深月を怖がらせたいわけでも、ましてや彼を無理矢理どうこうしたいわけでもないのだ。  むしろ石矢(いしや)のせいで身体にも心にも負荷が掛かっているであろう深月を、優しく包み込んで(いた)わりたいだけ。  そのためならこんな醜い自分本位な感情くらい、いくらでもセーブしてみせる。  グッと奥歯を嚙みしめるようにして己の中の凶暴性を腹の奥底深くへと沈めると、私は(はら)の中に溜めた(けが)れを外へ追い出すみたいにふぅーと長く息を吐いた。 「……そんな可愛いこと言ってっと、飯の前に深月がに食われちまうぞ?」  努めて軽く聞こえるように……殊更(ことさら)〝私〟のところに力を込めてニッと笑ってみせたら、深月がブワッと真っ赤になってうつむいた。 「あ、煽ってるつもりなんて……」 「ああ、深月にそのつもりがねぇのが一番まずいな」  ククッと喉を鳴らすように笑えば、深月が「あ、あの……、ごめんなさいっ」とソワソワと瞳を泳がせる。 (うん、これでいい)  深月が自分の危うさを自覚してくれたこの雰囲気ならば、私も激情のままに深月を押し倒さずに済む。
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