34.ひとりじゃないから【Side:長谷川 将継】

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「――なぁ深月(みづき)。今夜は出前でも取ろうか」  結果、苦肉の策。  デリバリーを頼もうと思い付いたのだが。  残念ながら寿司屋の大将も、ラーメン屋の店主も、仕出し屋の女将(おかみ)も、みんな顔見知りだ。 (……フランチャイズ系なら平気か?)  商店街にある店は、顔見知りのよしみ。頼めば気安く出前にも応じてくれるけれど、それだと深月のささやかな願いすら叶えてやれない。  そう考えた私は、日頃利用しない店……と思って最近駅前に出来たばかりのピザ屋『窯出しピザ工房』を思いついた。 「なぁ、深月、ピザは好きか?」  スマートフォンを操作しながら問い掛けたら、突然の質問に驚いた深月が、「え? ピ、ザ……ですか? ビザは……えっと……き、嫌いじゃ……ないです」としどろもどろながらも懸命に答えてくれる。 「嫌いじゃないってことは好きでもねぇってことかな?」  あまりに可愛い深月を、ククッと笑ってそう揶揄(からか)ったのは、単に場の空気を変えたかっただけの軽い意地悪だ。 「ち、違っ。あ、あの……ぼ、僕っ、好き……です、ピザ。た、ただ……一人では食べきれないし……ずっと長いこと食べてなかったから……その、最近のピザ事情に(うと)くて……将継(まさつぐ)さんにご迷惑をお掛けするかな?って……心配になっただけで」 「最近のピザ事情って……」  深月の必死な弁解が余りにも頓珍漢で、私は思わず笑ってしまった。  たかだか数年食べなかったからと言って、ピザが劇的に姿を変えてくるとも思えないのに、そんなことを真面目に気にしてしまう深月が、心底愛しくて……。
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