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「ほら、見てみ? 数年前とほとんど変わってねぇだろ?」
クスクス笑いながらスマートフォンに『窯出しピザ工房』のメニュー一覧を呼び出した私は、深月に画面を見せた。
「それに――何年もピザ屋とご無沙汰なのは、私だって一緒だ。深月と一緒で一人身だからな?」
何気なくそう付け足したら、深月が一瞬だけ咲江の仏壇に視線を投げ掛けて。
「あ。ご、ごめ、なさ……。僕……」
と申し訳なさそうに眉根を寄せる。
深月は本当に繊細で優しい子だ。
私自身、そんな悲観して「独り身」だと告げたわけではなかったんだが、深月は妻を失った私の喪失感を思って、悪いことをしたと思ってくれたんだろう。
「バーカ。ここ数年はどうあれ、今は深月がいてくれんだろ?」
だから寂しくはないのだと言外に含ませたら、深月が泣きそうな顔で私の顔を見上げてきた。
「深月と二人だからピザも一緒に分け合って食える。これってすっげぇ幸せなことじゃね?」
努めて軽めに言って、深月の頭をぐりぐりと撫で回したら、深月がギュッと私の身体に抱き付いて来るから。
正直そんな反応が返ってくるなんて思っていなかった私は柄にもなく慌てた。
「お、おい、深月……?」
抱きしめ返していいものか迷って、ソワソワと手を彷徨わせながら恐る恐る呼び掛けたら、深月が私の胸元に顔をグッと押し付けたままくぐもった声でつぶやいた。
「僕も……。将継さんと一緒にいられて……久しぶりにピザが食べられるの、すっごくすっごく幸せです!」
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