35.知ってる顔と知ってる気持ち【Side:十六夜 深月】

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35.知ってる顔と知ってる気持ち【Side:十六夜 深月】

 将継(まさつぐ)さんがスマートフォンで注文してくれたピザは『生ハムのマルゲリータ』と『バジルとモッツァレラチーズ』のLサイズを二枚だった。  思わず「お、大きくないですか……? 残しちゃいますし……お金も……」と俯くと、将継さんは僕の頭に手のひらを載せて、「深月(みづき)はもっと食った方がいいし、残ったら明日も食えるだろ? 金は本当に気にしなくていいから」と優しく微笑んだ。 「す、すみません……。僕、本当にすぐに働きますから! ま、将継さんの、お荷物になりたくないから……。僕も、将継さんに釣り合うように……」  そこまで言いかけたら、彼は鳶色(とびいろ)の瞳を見開いて僕を見つめてくるから、何か余計なことを言っただろうかと思わず口を(つぐ)んでしまう。 「なんか深月……ちょいちょい私のこと試してねぇーか?」 「えっ!? 僕が何を試すん、です、か……?」  ことりと小首を(かし)げて見せたら将継さんは何とも言えない表情(かお)で溜め息を吐いてしまったので、ますます混乱してしまう。 (僕……何か変なこと言った……?) 「どうせ働くんなら専業主婦っちゅー選択肢もあるけど?」  ククッと笑われながら言われた言葉を僕はしっかり真に受けて、こめかみまでじわっと熱くなるくらい頬を真っ赤にしてしまった。 「……ぼ、僕、ろくに家事も出来ないし……。それに、将継さんに釣り合ってなくて……」  しどろもどろ、再び同じ言葉を紡いだら、また何とも言えない顔をされてしまったので(もしかして……僕の気持ちバレちゃってる……?)と心臓がとくとく早鐘を打つ。 「みづ――」  頭に載せられていた手のひらが頬を辿り始めるので、僕はその手を掴んで(さえぎ)るように「ま、将継さん!」と大きな声を出した。 「ピ、ピザ来る前に、……ぼ、僕、お皿の用意します!」  内側からも火照(ほて)りを感じるほどの頬を見られたくなくて、慌ててキッチンへ駆け出そうとしたら、将継さんに逆に手を握り返されてしまって――。  そのまま彼は、(うやうや)しく僕の手の甲に口付けるから。 「ま、将継さん……。僕……」  〝好きです〟と言ってしまいそうになって、(……駄目だ!)とかぶりを振って、熱が生じた手を引っ込めた。 (試されてるのは僕の方じゃ……?)
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