35.知ってる顔と知ってる気持ち【Side:十六夜 深月】

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***  ダイニングテーブルにお皿とグラスを用意して将継(まさつぐ)さんとテレビ(何故かお見合い番組)を見ながら。 「深月(みづき)はどう告白したら堕ちてくれる?」  などと訊かれ、(もう堕ちてます!)なんて言えるわけもなく、距離を空けているはずなのに何故かそばに感じる彼の体温にあたふたしていると――。  タイミングよく家のインターフォンが鳴った。 「お、ピザ来たみてぇだ」  将継さんが財布を持って立ち上がるから、僕もせめてお金を出してもらった時にお礼を言おうと、彼の後を追ってついて行く。  ガラガラと引かれた玄関からピザ屋のユニフォームを着た男性が「どうもー」と、ボックスを二箱抱えて土間に入ってきたのだけれど。  将継さんを一瞥(いちべつ)し、僕を見つめた男性が「え? 美青年?」と声を出すので、(……あれ?)とキャップを目深(まぶか)にかぶった顔を覗き込んで驚いてしまう。 「た、武川(たけかわ)さん!」  武川(たけかわ)和興(かずおき)さんは、僕と同じ病院に通っていて、発症の理由までは訊いていないけれどPTSD(心的外傷後ストレス障害)で、同じ久留米(くるめ)先生のカウンセリングを受けている顔見知りの患者さんだ。  一時間違いで先生のカウンセリングを受けているので、ロビーでたまに顔を合わせていたら、一方的に〝美青年〟と呼ばれ、何故か声を掛けられるようになってからもうかれこれの月日が経つ。  とは言え僕はこの通りのコミュ障なので、世間話なんかをしどろもどろに会話するだけで、連絡先すら知らない程度の知り合いだけれど。 「美青年、一人暮らしじゃなかったっけ? え? 家族?」 「か、家族ではない、です……。ちょっと、お世話になってて……」  武川さんは僕のことをいつも〝美青年〟と呼ぶけれど、そういう彼こそ、精悍で爽やかな顔をした二十九歳の所謂(いわゆる)イケメンな男性である。 「人間嫌いの美青年が一緒にいるなんてどんな関係?」 「え、えっと……その……」  盛大に瞳を泳がせる僕に、将継さんが訝しみながらも回答を待っているように黙り込んでしまったから――。 「僕の……大切な……人、です」  ポツンとこぼすと、将継さんと武川さんは同時に僕を見つめた。
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