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「大切な人って……、え? 先生知ってんの? 美青年が誰かと一緒にいるなんて知ったら先生ビックリするんじゃないの? え? 誘拐とかじゃないよな?」
武川さんのことが、僕は正直あまり好きじゃない。
見た目だけで人を判断しようとしたり、誰それの病状がどうのこうの……だとか、口が軽くてあることないことを吹聴する人で。
だから――。
こうして将継さんと一緒にいるところを見られてしまったことも、どんな尾ひれはひれをつけて噂されるかわかったものじゃない。
まして、僕は月一で通院しているけれど、彼は僕と同じ曜日に毎週通院しているから、下手をしたら先生に僕と将継さんの話をされてしまうかもしれない。
先生には僕は将継さんに深入りはしないと言ったし、女の子相手に反応しただとか、不注意で怪我をしただとか嘘を吐いてばかりだ。
(もし先生に将継さんのことがバレたら……どうしよう……)
深入りしないどころか、僕は彼にだけ身体が反応するようになってしまった上に、恋までしてしまっているだなんて言えるわけがない。
先生は僕が先生に恋心を抱いていたら嬉しいと言った。
最近の先生は何だか変だ。
前は僕のことを優しく見守ってくれていたし、僕の言葉を疑ったり、何かを牽制するような口振りはしなかった……と、思う。
将継さんと出会ったと言った後から変だ。
(武川さんが先生に将継さんのことを話したら……、また先生が変わっちゃうんじゃ……)
「ゆ、誘拐なんかじゃ、ない……です! 僕の意思で一緒にいてもらってる……人です。先生は……このこと知りません……。だから、武川さんも、何も言わないで……くだ、さい……」
「でも美青年が危ないオッサンに引っかかってるかもしれないなんて、黙ってていいわけ?」
そこで一つ咳払いが聞こえて――。
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