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37.誰にも譲りたくない【Side:十六夜 深月】
「遠慮なんてしなくていい。……深月、俺を、欲しがれよ」
その言葉に、僕の心臓ははしゃぐように踊った。
〝欲しい〟と思ったものを欲しがっても許される環境に今まで身を置いていなかったから、それは酷く自分を脆くさせられてしまうものだった。
――将継さんが好きだ。
この手に余す嫉妬心も、独占欲も、将継さんが好きなのだと、うるさいくらいに胸を鳴らし掻き乱されている。
まだ出会ったばかりで数日前まで他人だったのに、一緒にいる中で慕情は培われ、恋情に変わっていたのは紛れもない事実だ。
「――本当に……? 本当に、僕の好きと……将継さんの好きは……一緒、です、か?」
〝愛している〟と、絶えず囁いてくれたけれど、それは大人の言葉遊びなのかもしれないと、まだ彼に釣り合えていないんじゃないかと、自信がない。
けれど、こんなにも好きだ。狂おしいほどに。
「こんだけ言っても伝わんねぇか? 触れてぇと思う、そういう好きだ。深月はどうだ? 俺に触れてぇと思ってくれるか?」
真摯な瞳が僕と出会って、同じなんだって思ったら、彼に拭ってもらった涙がまた緩みきったまなじりからこぼれ落ちそうになって、ギュッと唇を噛み締める。
彼に触れたい、触れられたい。
「……キス、して……将継さん……」
ポツンと呟いたら、すぐに将継さんの顔が眼前に迫って、まるで挨拶のような唇を押し当てるだけの一瞬のキスを与えられたけれど、でも――。
(こんなんじゃ、足りない……)
「深月の欲しいキスって、これか?」
浅ましく欲している自分が恥ずかしくて、僕の気持ちなんて見透かされているはずなのに、試すような問いに(意地悪だ……)と経験値の乏しさを将継さんのせいにしてみる。
「……違……ます……もっと、熱いの……」
言ったら、逞しい腕が僕をさらって身体は宙に浮き、将継さんに抱え上げられて、啄むようなキスを顔のあちこちに落とされながら僕の部屋の布団の上に降ろされた。
「深月が望むキスは……こういうことになるけど、いいか?」
組み敷かれた身体は、彼のこの体温に恋焦がれていたのだと全身が訴えてくるようで、僕は戸惑いながらも頷いていた。
(僕の欲しいキスも……きっと、こういうことだって言ったら、将継さんどんな顔するかな……)
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