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「あ、あの……僕……」
どうしよう、こういう時、まずはどこから話せばいいんだろう?
裸ですみません?
いや、違う。介抱してくれてありがとうございますが最優先だろうことくらいわかっている。
だけど目の前の切れ長の瞳は、甘い琥珀色をしているけれど眼鏡を伴ってよりシャープに見えて。
僕はしどろもどろになってしまう。
羞恥と、それから、色々世話を焼いてもらったのにお金だけ置いて逃げようとした申し訳なさで、瞳に涙が浮かびそうになる。
目の前の男性がゆっくり近づいてきた。
それだけでびくびくと身体が震え始めて蹲ってしまうと、男性の手が僕の小刻みに痙攣する肩に触れた。
「……もしかして、逃げようとしてた?」
そっと、潤んだ瞳を男性と絡めた。
彼が唾を飲んだような気がするのは気のせいだろうか。
「あの……僕、すみません……。たくさん、迷惑かけてしまったみたいで……。どうお礼したらいいのかわからなくて……。お金……お支払いしたらいいかなって……」
彼に触れられている肩が何故かじわじわと熱を持って、次第に浅くなっていた呼吸が落ち着いてくるのはどうしてだろう。
(この人の手、凄く、あったかい……)
そこでゆっくり顔を上げて、はたと気づいた。
寝起きで髪を下ろしているので気づかなかったけれど、眼鏡をかけたその顔は――。
昨日、居酒屋にいた、常連さんらしき人だ。
店主さんと、とても親しげにしていた人だ。
どうしよう……行きつけの居酒屋の店主と談笑するなんて、この人はコミュ力お化けで僕とは全く違う人種だ。
眼鏡の奥の瞳が射抜くように見つめてくるけれど、僕はその視線を直視出来なくて、所在なげに瞳を揺らす。
「裸で逃げようとしていたの?」
カッと頬が紅くなる。
どうしよう、もう、最低最悪だ──。
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