39.招かれざる客【Side:十六夜 深月】

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***  お風呂から出て、温め直したピザを二人で食べ終え、寝支度を整えた頃には、もうすっかり日付が変わってしまっていた。 「なぁ、深月(みづき)。深月の布団汚れちまってるし、部屋も換気した方がいいから今日は私の部屋で一緒に寝ようか? 布団もう一組出すから」 「えっ! で、でも……」  思わず頬を赤らめると、将継(まさつぐ)さんはククッと喉を鳴らして笑いながら「心配しなくても、今日はもうなんもしねぇよ」と手のひらを頭に載せてきた。 「……僕、明日布団カバー洗って、おきます! 将継さんの部屋に、お邪魔……します! ……いざ!」  ぎこちない糸繰り人形(マリオネット)みたいな僕を、将継さんは可笑しそうに琥珀色の瞳を細めながら手を引くから、(本当に恋人でいいのかな……?)と思いつつも、心はほくほくと温かかった。 *** 「じゃあ、行ってくるな? 深月。いい子で待ってろよ?」  翌朝、仕事に出る将継さんを玄関先まで見送りながら「は、はい……。将継さんが帰ってくるまで……ちゃんと待ってます……。いってらっしゃい」と返事をすると、彼はニヤッと片頬を上げた。 「なぁ、〝行ってきますのキス〟していい?」  その言葉にたちまち身体が固くなって、ドキドキしながら「は、はい!」とギュッと目を閉じて唇が塞がれるのを待っていると――。  将継さんは頬に口付けて、僕の唇を人差し指で押さえた。 「こっち、期待した? 唇は〝ただいまのキス〟な? 可愛い恋人のために早く帰ってくるから」 「あ、あの……! 恋人の件、なんですけど……」  言葉尻を(にご)すと、将継さんは訝し気に僕の瞳を覗き込んで「やっぱ無しとか言わねぇよな?」と眉根を寄せるから慌ててしまう。 「ち、違くて……! その……本当に、こんな不束者(ふつつかもの)だけど……いい……ですか? 恋人って、思っても……」  言ったら、彼は思い切り吹き出した。 「深月以上のヤツなんていねぇわな?」  なんて言いながら〝ただいまのキス〟のはずの唇を塞がれるから。 「じゃあな?」  僕の髪を一房(ひとふさ)掴んで口付けてから、踵を返して行った将継さんの背中を玄関が閉まるまでぼんやりと見つめて、しばし呆然と立ちすくんでしまった。 (本当に恋人になったんだ……初めての……)  僕の人生には有り得なかったはずの存在に、駆け回りたくなるくらい胸がいっぱいで、夢じゃないよね?とつねった頬は確かに痛くて――。  彼が触れた唇を指でなぞったら、惜しみなく注がれた愛の温度はびっくりするほど高くて、ちょっとだけ視界が霞んだ。
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