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将継さんを見送って、布団カバーを洗濯機に入れ(僕と将継さんが恋人……)と、にまにまと面映ゆい幸福感に浸っていると、不意に家のインターフォンが鳴った。
(……え? お客さん?)
勝手に出ていいものかわからず、居留守を使おうとそわそわして客人が帰る気配を待つけれど、インターフォンはしつこいくらい鳴り続けるから。
そろりと玄関に向かって廊下からチラッと覗いて見ると、格子状の引き戸に透けるシルエットはどうやら男性のようだ。
(どうしよう……出た方がいいかな?)
あまりにも客人が帰る気配がなく、インターフォンは絶えず鳴り続けるから、勇気を出して玄関の鍵をかちゃりと開けた瞬間、勢いよく向こうから引き戸が開かれて――。
「よぉ、美青年」
「た、武川さん⁉」
どうしてまた武川さんが現れるのだろうかと目を瞬かせていると、彼は土間にズカズカと入り込んでリビングへ続く廊下の奥を見渡した。
「平日の朝だし、あの危ないおっさん仕事だよな?」
「は、はい……。ま、将継さんはお仕事に行って……ます。武川さん、どうしたん、です……か?」
将継さんが留守だと聞いた武川さんは、途端に瞳を輝かせて僕の腕を掴んでくるから、将継さん以外に身体を触られるのは怖い。
「良かった。美青年のこと助けに来たんだよ。あんな危ないおっさん、絶対に脅されてるんだろ? 俺、これから病院に行くからさ、美青年も一緒に行こう? 先生に相談した方が良いって」
「で、でも……僕、予約、入れてない……です……」
「美青年のピンチだろ? 俺の予約枠で一緒に先生と会おう? ほら、タクシー待たせてるから早く早く」
(先生にいま会ってもどうしたら――)
「ま、将継さんは危ないおっさん……じゃないし、僕の意思で一緒にいる……大切な……人、だから……別に先生に、相談しなくても――」
なおも言葉を言い募ろうとしたら、武川さんは痺れを切らしたように舌打ちをするから、びくっと肩が震える。
「いいから! 早く出掛ける支度してこいって!」
半ば潤み始める瞳で武川さんを見つめるけれど、彼の形相は険しく、何も言えずに自分の部屋に戻ってマウンテンパーカーを羽織り、財布と携帯と合鍵を持って玄関に戻ると、武川さんは僕を無理矢理タクシーに乗せた。
「俺が助けてやるからな?」
僕はギュッと唇を引き結んで、スマートフォンを手にし、将継さんに『武川さんが来ました。病院へ行ってきます』と急いでメッセージを送った。
仕事中なのだろう、〝既読〟はつかない。
(どうしよう、将継さん――)
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