40.トラブルと後悔【Side:長谷川 将継】

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 清水の家は会社から車で五〇分くらいの場所にある。  家を出てすぐに事故に遭って……何やかんやあってから社に連絡が来たと考えるのが普通か。  奥さんと意思の疎通が図れたってことは、意識はありそうだ。  そう思った私は、目の前の田村に問い掛けた。 「なぁ田村、お前の今日の予定は?」 「へっ。俺ですか? お、俺は……」  石矢(いしや)と一緒に大滝(おおたき)修也(しゅうや)の下で現場へ出る算段になっていたらしい。 「けど……石矢が辞めちまったんで……大滝先輩に言われて材料を調達してから現場に向かおうと思ってたトコで……」  大滝は今日は現場の方へ直行する予定だとか。  私は田村の方へ近付くと、彼が手にしたままの受話器を受け取った。  一旦電話機本体に受話器を戻してオンフックにすると、短縮番号に登録されている大滝の番号を呼び出して、彼に電話を掛ける。  程なくして電話に応じた大滝に清水の事故の件を話した私は、「電話番が要るんだ。すまんが今日は田村を事務所へ置いといても構わねぇか? もちろん、戻り次第私が変わる予定だ」と話した。  大滝は『そう言うことでしたらもちろん了解です。田村に頼んどいた材料(もん)はこっちで何とかしますんで、清水のこと、何か分かったら俺にも教えて下さい』と電話を切った。 「――田村。いま聞いた通りだ。電話番頼めるか?」  何かあったら私か……繋がらないようなら大滝に指示を仰げと伝えると、田村は不安そうに瞳を揺らしながらもコクッと(うなず)いてくれた。 (あー、必要ねぇって思ってたが……やっぱ事務員がひとりいるなぁ)  咲江(さきえ)が健在だったころは、彼女がよくこういう時には電話番を引き受けてくれていた。  彼女の死後は私が事務所で事務仕事をやりながら、出なきゃいけない時には転送電話サービスなんかを使って何とかしのいできたのだが――。  さすがにこういうことが起きると、電話を取ってくれる事務方の人間が欲しくなる。
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