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「なるべく早く戻るから。――頼んだぞ?」
すぐそばに突っ立ったままの田村の肩をポンと叩いて言ったら、彼が弾かれたように「が、頑張ります!」とガチガチに強張った顔で返事をする。
こういうのが本当に不慣れなんだと思うとどうも申し訳なくて、私は落ち着いたら昼飯でも奢ってやるか、と思った。
***
とりあえず『長谷川建設』と社名が入った軽トラに乗り込んだ私は、清水と財間が担当している住川工業の現場へ向かった。
事故に遭ったと言う清水の安否も気になるが、どこの病院へ運ばれたのか分からない現状では動きようがない。
何か進捗があれば、あちらから会社へ連絡が入るだろう。
それもあって、電話番として田村を会社に残してきたのだ。
限られた人数しかいない中、出来ること、出来ないことを的確に仕分けして、最善を尽くす。
そうやって私は、自分の小さな会社を何とか回してきたのだ。
うちの社の人間は、すねに傷のある輩が多いが、みんな真面目に会社のために頑張ってくれているやつばかりだ。
彼らを路頭に迷わせないようにする責任が、私にはある。
石矢のようにどうにもならない人間も、たまにはいたりするけれど、そんなのは極めて稀だ。
携帯をマナーモードに切り替えた私は、助手席に携帯を置いた状態でハンドルを握った。
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