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「……どうして武川くんと深月くんが? まぁ、座って?」
先生が対面する二人掛けのソファに僕たちを促し、そわそわと着地すると、武川さんは前のめりになって「先生! 俺、美青……十六夜くんの大変な事情知っちゃって! 助けるために連れてきたんです!」とまくし立てた。
「……深月くんの大変な事情って?」
先生は笑うと瞳が弧を描くけれど、真摯な時に見せる強面の鋭い視線のままで、僕が口を開こうとしたのに武川さんが間髪入れずに喋り出してしまう。
「俺の仕事の配達で、ある家に行ったんですけど……そこに十六夜くんが居て! しかも、初対面の俺を威嚇してくるような危ないおっさんに囲われてて! 〝大切な人〟とか言うんですけど、絶対言わされてるんですよ! 十六夜くんが人と仲良くするような子じゃないの知ってるし……俺が助けなきゃって思って連れてきました!」
何か使命感のようなものを覚えているのだろうか、さも〝自分は正しいことをしています〟と言わんばかりの武川さんの説明に、僕は膝の上でギュッと拳を握った。
「本当なの? 深月くん」
「ま、まさ……彼は危ないおっさんじゃありません」
「危ないおっさんかどうかは置いておくとして……誰かのそばに一緒にいることは本当なの?」
最初に『違います。武川さんの見間違いです』とでも、どうとでも嘘を重ねることは出来た、出来たけれど――。
将継さんはもう僕の大切な人で、これからもそばにいたい人で、危ない人間呼ばわりされるのは嫌だったし、存在を隠すのも心が痛んで。
「――先生……、僕、先生に嘘を吐いていました」
「うん。深月くんが嘘を吐いているのは電話で十分察していたよ? 武川くんの話から推察すると……この間、お礼がしたいとか言っていた男性と一緒にいるってことかな? ――それで、その彼とどうなったの?」
「……恋人、に、なりました」
ポツンとこぼしたら、隣に腰掛けている武川さんが「はっ!? 何言ってんの!?」と、信じられないと言った間の抜けた声を出すから。
「恋人です。お礼をしに行った彼です。好きに……なりました」
先生の瞳を逃げずに見据えたら、その目が弧を描いた。
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