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武川さんを伴って先生が戻ってくると、武川さんは「先生、十六夜くん大丈夫ですか? 俺が助けになれることはありますか?」と、またもや正義の刃だと言わんばかりに言葉を振りかざす。
「武川くん。深月くんは彼のそばで酷い目に遭っているかもしれないんだ。深月くんは優しいから彼を庇うけれど……武川くんも守ってあげてくれる?」
「やっぱりですか!? 俺も心配してるんで、しっかり守ってあげます! 任せてください!」
武川さんの言葉ににっこりと瞳を細めた先生が「じゃあ深月くん、また来月に待っているね? よく考えて? 武川くん、深月くんを自宅に送り届けてくれる?」
「はい! じゃあ先生、また来週お願いします。ほら、美青年、帰ろう?」
武川さんがまた僕の腕を掴んでカウンセリングルームを後にする様を、先生は穏やかな瞳で見送ってきた。
(こんなの……やだ……)
***
武川さんと再びタクシーに乗って、僕は自分のアパートに誘導させられて、鍵を開けると何故か武川さんまで一緒に入ってくるからそわそわしてしまう。
「美青年、スマホ出して?」
「……え?」
「ほら、あのおっさんに最後に挨拶しろよ。さすがに黙って消えたら捜索願いとか出されるかもしれないじゃん?」
「でも、僕……将継さんのところに帰りたい……最後なんて……」
「先生の言うことが聞けないの? ほら、俺そろそろ仕事行かなきゃだから早くしてくんない?」
将継さんと離れたくない。
でも、離れなきゃ彼は僕のせいで犯罪者に仕立てあげられてしまうかもしれないんだ――。
携帯を取り出して、将継さんの連絡先を表示させる。
『将継さん、恋人になれて嬉しかったです。こんな僕に愛してるって言ってくれて幸せでした。ずっとそばにいたかった。でも、僕のことはもう嫌いになってください』
その文章を綴っている間、涙が止まらなくて、胸が苦しくて仕方がなくて、もう会えないんだという現実を受け止めたくなくて。
(だけど、僕はそばにいちゃいけない……)
泣きながら〝送信〟をタップすると、それを見計らった武川さんは僕の手の中からスマートフォンを取り上げた。
「これは俺が預かっておく。仕事が終わったらまた来るから。ってか、美青年って――男もイケんだな? へぇー。じゃあまた後でな?」
ニヤリと笑って去って行った武川さんの姿を涙でぐしゃぐしゃになった顔で見つめると、僕はその場に座り込んでしまった。
(将継さん……好きです。嫌いになんてなって欲しくない。でも、もう会えない……)
――将継さんのために離れなきゃいけないんだ……。
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(本編に☆1で見られます)
https://estar.jp/extra_novels/26204853
今後とも『ネコヤモ』をよろしくお願いします!
鷹槻羽那×ちろる
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