42.私は深月のことを何ひとつ知らない【Side:長谷川 将継】

1/5

680人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ

42.私は深月のことを何ひとつ知らない【Side:長谷川 将継】

「――じゃあ、よろしくお願いします」  やっと解放された……。  すぐ戻るつもりで車から離れたというのに――。  住川(すみかわ)工業の現場責任者がなかなか離してくれなくて、ハッと気付けば車から降りて一時間以上が経過してしまっていた。  まぁこれも仕事だから仕方がないといえばそれまでだ。  だが――。  今日は清水の交通事故のこともある。  事務所へ一人残してきた電話番要員の田村の不安そうな顔が脳裏によみがえってきて、私は財間(ざいま)に後のことを頼んで小走りで軽トラに戻った。 「あの、社長っ!」  とりあえず、携帯……と助手席側のドアを開けたと同時、私を追いかけてきたと(おぼ)しき財間から声を掛けられて。  質問しそびれたことでもあったかと振り返れば、「あの、清水さんのこと。何か分かったら俺にも連絡ください。お願いします!」と頭を下げられた。 「んなの当たり前だ。ここは財間と清水二人の現場だろ? 清水と話してみて平気そうなら直接財間にも連絡入れてくれるよう頼んどくから……。すまねぇ。ちぃーとしんどいかも知んねぇが、踏ん張ってくれるか? 私も出来るだけ財間の負担が減らせるよう考えるから」 「有難うございます!」  深々と頭を下げる財間に軽く手を上げて。信頼の眼差しで私の方を見詰める財間の視線を感じた私は、何となくここでシートの下を探り続けるのは恰好が悪いなと思ってしまった。  内心ではすごく携帯が気になっているくせに。  一旦移動しようと決意する。  ここから死角になるコンビニに移動する程度の時間なら、通知を見なくても大丈夫なはずだ、と自分に言い聞かせて運転席に乗り込むと、私はいそいそと車を発進させた。 ***  何だか胸の辺りがソワソワと落ち着かないのは、朝から色んなことが一気にありすぎて、気持ちが(たかぶ)っているせいだろうか。  住川工業の現場から車で三分ばかり走ったところにあるコンビニへ車を滑り込ませると、私は店舗から一番遠い駐車スペースに軽トラを停めた。  一旦運転席から外へ出ると、助手席側のドアを開けて、シートの下を覗き込む。 「あった」  どうやったらこんな奥に入り込むんだ、というくらい奥の方。  ボンネット側にもぐり込むようにしてフロアマットの上に転がっていた携帯を手に取れば、チカチカと何らかの着信を知らせる通知ランプが光っていた。  はやる気持ちを抑えながら開いた画面には、会社から二件、清水の携帯から一件。  そうして、深月(みづき)からのメッセージが入っていた。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

680人が本棚に入れています
本棚に追加