06.餌付け【Side:長谷川 将継】

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06.餌付け【Side:長谷川 将継】

「さぁ、こっちに来て座って?」  半ば強引に深月(みづき)くんの手を引いてキッチンへ(いざな)うと、私は妻が亡くなって以来使うことのなくなっていた、ダイニングテーブルの咲江(さきえ)が愛用していた椅子を引いた。  ずっと机の下へ潜り込んでいて見ることのなかった、咲江お気に入りのパッチワークキルト製の薄桃色の座布団を久々に見た私は、ちょっと胸の奥が締め付けられるように痛んで。  それを隠したいみたいに、 「ここ、動かない。いいね?」  言って両肩を軽く押さえるようにして深月くんをその座布団の上に座らせた。 「あ、あの……」 「礼がしたいんだろう? だったら……」  言いながら冷蔵庫を開けると、私は中から卵を二つ取り出した。 「ねぇ。キミは卵焼き、甘いのとしょっぱいの、どっちが好き?」  初対面の時は〝くん付け〟で呼んでみたけれど、何かしっくりこない。  何せ一回り近く歳の離れた若い男の子だ。  自分の会社の子たちと同じ扱いをするのは申し訳ない気もするが、私は勝手に彼のことを社員ら同様呼び捨てにさせてもらおうと気持ちを切り替えた。  深月はとても無口だ。  必要最低限の質問にしか答えてくれないし、自ら身の上話を語るようなタイプにも見えないから。  彼が目覚めてこっち、そんなにたくさん言葉を交わしたわけじゃないけれど、この子はきっと、人と接するのが苦手なタイプだろうな、と思って。  きっと、私みたいに誰彼構わず話し掛けるような人間が、一番苦手なんじゃないだろうか?と推察する。  でも、だからこそあえて距離を削ってやろうと思ってしまった。
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