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43.少しだけ休ませて【Side:十六夜 深月】
武川さんが仕事へ行ってしまって、スマートフォンも奪われた状態で何もすることがなくて、ベッドの上にごろんと倒れ込むように寝転んだ。
(もう、将継さんに会えない……)
そう思うと、次から次へと涙がこぼれる。
何か導かれるように出会って、僕に温かいものをたくさんくれて、〝恋〟という初めての感情を教えてくれた。
唇に触れたら、まだ彼の優しいキスを鮮明に思い出せる。
高められた身体の熱さも、触れられた感触も、何かも僕の身に刻まれていて、思い出すだけでも身体が彼を欲して、触れられたいと思う。
心にぽっかり空いていた穴を埋めてくれたのが将継さんだった。
先生は将継さんへの想いは〝吊り橋効果〟だと言ったけれど、そんな一時の気持ちで誰かにここまで焦がれることなんてない。
(将継さん、僕の送ったメッセージ見てどう思ったかな……)
〝嫌いになってください〟なんて、そんな言葉じゃなくてもっと別の言葉があったんじゃないだろうか。
けれど、〝僕も好きだけど、もう会えなくなりました〟だなんて本当のことを告げたら、優しい彼はそれでも僕のそばにいてくれて、守ろうとしてくれるはずだ。
たとえ、自分が犠牲になったとしても――。
だったらもう、いっそのこと〝嫌いになりました。さようなら〟と、僕のことは恨んでもらえるような言葉を送るのが、きっと正解だったんだと思う。
なのに、弱い僕はそれが出来なかった。
彼を完全に突き放すような真似が出来なかった。
(もう、会えないのに――)
涙が次から次へとこぼれて、いつから自分はこんなに弱くなってしまったんだろうと、不思議で仕方がない。
感情なんてないみたいに、血の通わない人形のように生きてきたはずなのに、彼の温もりに触れて随分弱くなって――いや、人間らしさを取り戻せていたんだと思う。
涙の一粒一粒に将継さんへの想いが宿って、この身から流れていってくれたら楽なのに、身体と心は上手く連携をとってくれないみたいだ。
(将継さん……ごめんなさい……)
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