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「よぉ、美青年。何してた?」
仕事を終えた武川さんが再びやってきたのは夜も遅くになってからで、僕は何をする気にも、何を食べる気にもなれずベッドに腰掛けて項垂れていた。
「……別に、何もしてません……」
「なぁ、スマホ、めっちゃ鳴ってたぞ? あのおっさんも諦めが悪いんだな? 執着されまくりじゃん? 美青年、先生になんて言われたの?」
「……来月の予約日までに……将継さんと、離れないと……いけないって……」
そうしないと、通報されるとは言えなかったけれど。
「――俺さ、今日一日美青年のスマホ持ってて、すっごいムカついたんだよな。おっさんから電話鳴りまくって」
(将継さん、僕にたくさん電話くれたんだ……)
あんなメッセージを送った僕を、彼はきっと不思議に思っているだろうし、裏切ったと思われているかもしれない。
「美青年には言ってなかったけど……俺がPTSDになったのって、嫁とガキをあのおっさんくらいの年齢の男に盗られたからなんだ。俺を愛してくれる奴なんていないって途方に暮れた。そんな時に病院で美青年見つけてさ。ああ、コイツも一人なんだな、仲間じゃん?って思って声掛けた。でも――美青年はこんなに執着されてるんだって思ったら腹が立った」
「武川さん……」
辛そうに武川さんがこぼした言葉に、僕は一瞬同情を覚えてしまったけれど、次に武川さんが放ったのは、どこまでも冷たい言葉だった。
「……だから、今からこのスマホで、あのおっさんに『大嫌いになりました。二度と近付かないで』って送っていい? つーか、美青年の許可なく送っちゃおうとも思ったんだけど、さすがにそれは酷いかな?って思ったけど――どうよ?」
「そ、そんなのヤダ……僕、ちゃんと時間までに将継さんのこと、忘れる……から……彼を、傷付けないで……。お願い、します……武川さん……」
「じゃあさぁ――仲良くしようぜ? 美青年?」
言って、武川さんは僕の身体を無理矢理ベッドに押し付けて、力ずくで組み敷いてくるから。
「や、武川さんっ……!」
「なぁ、美青年ってなんの病気なの?」
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