43.少しだけ休ませて【Side:十六夜 深月】

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***  朧気にまぶたを開けると、窓からは昨日の土砂降りが嘘のように陽の光が射し込んできて、泣き過ぎて腫れた瞳には痛いくらいだった。  昨夜はシーツを変えようなどと思う気力すらなくて、床に(うずくま)って、掛け布団を被ってそのまま逃げるように夢の中へ飛び込んだのだけれど。  ベッドからは吐しゃ物が乾いた異臭がするし、口の中は酸っぱいし、昨日闇雲に雨に打たれたからだろうか……熱があるようで身体がだるい。  体温計もなければ、スマートフォンがないので時計すらもなくて、今が何時なのか、自分の身体がどういう状態なのかもわからない。 (今日も武川(たけかわ)さんが来るかな……)  今日はちゃんと口で満足させてあげられるようになって、スマートフォンを返してもらわなければいけない。  将継(まさつぐ)さんに『大嫌いです。二度と近付かないで』だなんて、そんな辛いメッセージを送って欲しくない。  とにかく身体が怠くて、これから武川さんに毎日監視される日々を送るのなら――監視を解かれても、もう将継さんと会えないのなら……。  生きていることに、なんの意味があるだろう。  初めて手に入れた将継さんという温もりが、こんなにも簡単に手の中からこぼれ落ちていってしまうなんて。  どんな人間に言い寄られても鬱陶しかったし、離れていってくれたら清々するような、虚無な人生には慣れていたはずだ。  なのに、こんなにも心細い。  誰にも頼れないことが、こんなにも苦しいと感じたことが今まであっただろうか――いや、ない。 (将継さん、ごめんなさい……。将継さんを傷付けるような言葉を送られないように頑張るから……将継さんを犯罪者になんてしないように頑張るから……)  僕はきっと将継さんのことを忘れられないけれど、将継さんは僕のことなんて忘れ去って幸せでいて欲しいから。  そのためだったら、僕の心なんていくらでも殺すから。  ずっと壊れてたんだから、また壊れても大丈夫だろう。  将継さんにもらった余りある幸せだけで、その思い出だけで、十分過ぎるほど僕の人生に柔らかいものがあったんだって、それだけ抱えてちゃんと生きていくから。 (どうか、将継さんは幸せでいてください……)    ――ただ、今は少しだけ休ませて。神様。  また目が覚めたら頑張るから。  一人でだって頑張るから。 (でも、困ったな……会いたいや)
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