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野良ネコみたいな深月相手に、悠長にあちらから近付いてくるのを待っていては、一向に距離が縮まらない気がしたからだ。
それこそ長いこと一緒に居られる相手ならば、時間を掛けることも可能だろう。
だが、深月は下手をすると今すぐにでも私の前から姿を消してしまいそうな危うさがあったから。
ならば有限な時間の中、こちらから積極的に関わっていくのが得策に思えた。
咲江は私が拾ってきた猫たちとすぐに仲良くなれるタイプだったが、私はどうにも距離の詰め方が下手くそらしく、いつも手放す直前まで懐いて貰えなかったのを覚えている。
『将さんは相手のことを考えすぎて、変に構えちゃうから駄目なんです。詰めてもいいところ、離れた方が無難なところを上手に見極められるようになれたら、もっと早く相手と仲良しになれると思いますよ?』
余りにガンガン行くのも良くないが、私みたいにアレコレ考えて引き過ぎるのも駄目なのだと咲江から良く言われていた。
ならば――。
まだ定着していない相手の呼び方をさりげなく呼び捨てに変えてみるくらいなら、深月をそんなに構えさせず歩み寄れるんじゃないだろうか。
そんなことを思いながら深月を振り返ると「あ、まいの……」と言う言葉が返ってくる。
どうやら私がいきなり呼び捨てに切り替えたことにすら、テンパっていて気付いていないらしい。
「了解」
そう答えながら、(可愛いじゃないか)と深月には見えない角度で笑みを浮かべずにはいられない。
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