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ふぅ、と長く息を吐く気配が電話越しに伝わってきて、私は相良が煙草を吸っているんだな、と察する。
相良は何か一仕事終えた後に一服をするのが好きだとよく言っていた。
それを知っている私は、思わず電話口。身を乗り出すように相良に食いついた。
「決まってるだろ! すぐ教えてくれ!」
***
結局会社近くまで迎えに来てくれた相良の白いワンボックスカーへ近付いたと同時、運転席へ座っている男を見て、私は瞳を見開いた。
「石、矢……?」
石矢は私を見ても「将継さん!」と馴れ馴れしく懐いてくることもなく、節度を保って軽く会釈を返してくるのみだった。
「――ま、座れや」
相良に促されて後部シートへ座ったら、節度を保った様子の石矢の方を顎をしゃくるようにして指し示すなり、相良が満足げにククッと笑った。
「――なかなかいい感じに育ってるだろ?」
そうして押し殺した声で私にそう耳打ちしてくるから、「お前付きの運転手にしたのか?」と問うたのだが。
「まさか。こいつはまだ部屋住みの下っ端だ。――ま、食わしてやる代わりに雑用させてる感じだな」
何にせよ、殺されることなく働かせてもらっているのだと知って私は少しだけホッとして。
「なぁ、お前の可愛い相手――深月ちゃんだっけ? どうもその子、脅されてるみてぇだぞ?」
しつけが行き届いているんだろう。
私と相良が話している間、石矢はこちらの会話が聞こえているだろうに、何の反応も示さなかった。
深月を酷い目に遭わせた石矢の前で深月の話をするのは気が引けたが、相良がその状況を許しているのだから恐らく問題ないんだろう。
「脅されて……ってどういう意味だよ」
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