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「お前は……ピザ屋の……」
深月をひたすらに名前で呼ぼうとしなかった、ピザをデリバリーしてきたいけ好かない男。
確か、武川とか言ったか――。
そう言えば反応が遅れて返信出来ず仕舞いになってしまった深月からのメッセージにも『武川さんが来ました』とか書かれていた。
どうやら武川も私の顔を見てピンと来たらしい。
口がきけないくせに瞳を見開いて私を見詰めて懸命に何かを言い募ろうとしてきた。
だがその様を見るなり相良がチッと舌打ちをして、武川の腹辺りへ痛烈な蹴りを入れるから。
武川は苦しそうに顔を歪ませて縮こまった。
「なぁ、いいか、アンちゃん。今から口のを解いて喋れるようにしてやるが、こちらが問いかけたことへの返答以外はしゃべんねぇこと。あと、聞かれたことには即答な? 俺、あんま気が長くねぇからそのつもりで対応しろ。――てめぇもこれ以上痛い目にゃ遭いたくねぇだろ? な?」
相良の言葉にコクコクと涙目でうなずく武川に「いい子だ」と微笑む相良の表情は、彼を旧くから知る私の目から見てもゾクッとさせられた。
「じゃあ、ひとつ目の質問。……この携帯はてめぇのか?」
相良が目配せしたと同時。
後ろに控えていた男の一人がサッと両手で捧げ持つようにして差し出してきた携帯を受け取ると、相良が武川の前でそれをゆらゆらと揺すってみせる。
それを見た武川が、フルフルと首を横に振った。
私は、相良が手にしているそのスマートフォンに見覚えがあった。
「なぁ相良! それ、……深月の……!」
「って俺の親友が言ってんだけど、マジ?」
相良の質問に、武川が言葉に詰まって。
「あれ? 俺、さっき言わなかったっけ? 聞かれたことには即答、……な!?」
武川の下腹部――急所へ向けて、相良の蹴りが入った。
ぐぅっと苦し気にうずくまってよだれと鼻水を垂らす武川を見て、わざわざ相良がソコを狙ったことに違和感を覚えた私だ。
「なあ、まさかと思うがお前……。深月に何かしやがったのか?」
問いかける声が最悪の答えを予測して、怒りと悲しみで情けなくも震えるのを感じた。
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