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45.幻でもいいから【Side:十六夜 深月】
「深月」
愛おしい声が僕を呼ぶから、早くその顔を見たくて急いで振り返ったら、将継さんがすぐそばにいて、温かい腕で抱きしめてくれた。
昨日、『僕のことは嫌いになってください』と言ったのに、彼の腕の力強さは変わらず、琥珀色の瞳はそんな言葉は気にしてはいないのだと暗に訴えてくるように優しく細められている。
だけど――。
「……もう会えな――」
続きを言い終わる前に、将継さんは僕の唇にそっと唇を合わせてきて、触れ合うだけの口付けを落とし、「続きは言わせねぇから」と囁くと再び唇が重なる。
覚えたばかりのキスはまだ慣れないけれど、彼にもっと近付きたくて薄っすら唇を開けば、肉厚の熱が口腔に差し込まれることを知ってしまっているから。
期待したとおり、すぐに咥内に望んでいた温もりが与えられて、焦らすように下唇の裏を辿るから、もっと奥に熱が欲しくて歯列を割ると、舌先で舌先を突かれる。
早くもつれ合わせて絡み合わせたくて、たどたどしく少しだけ舌を唇の外へ伸ばしたら、濃やかに喉奥から奪われるように引きずり出されて。
二人の唇の狭間で愛撫される激しい舌の動きに、身体の奥の火種がじわじわと燻って、その先の劣情を欲しがるけれど――。
そんな欲を抱いている自分が恥ずかしくて、将継さんから無理矢理さらって欲しいと、ひたすら彼が身体に手を伸ばしてくれるのを待つ。
やがてそれを汲み取ったかのように僕のことを見透かした彼は、ゆっくり背骨を辿るように手のひらで淡い刺激を与えてくるから、ぴくんと全身が跳ねる。
濡れた水音が激しく結わえた唇から耳に届いて、身体の芯まで彼に委ねようと、そろりと全身の力を抜いて枝垂れかかれば、逞しい腕が抱きとめてくれて。
わざとなのだろう、くちゅっと恥ずかしい音を立てられながら離れた唇を視線で追いかければ、やがて彼の双眸に惚けた僕の顔が映る。
でも――。
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