45.幻でもいいから【Side:十六夜 深月】

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 一人で生きていくと覚悟したものの――。  身体が弱ってしまうと心まで弱ってしまうんだろう。  武川(たけかわ)さんでもいいから誰かそばにいてはくれないだろうかと、このどうしようもない体調不良に誰か手を差し伸べてはくれないだろうかと、危機感のようなものを覚える。 (とりあえず、水……)  このままでは喉が枯れてどうにかなってしまいそうだと思い、再びゆっくりと半身を起こすけれど、掛け布団から離れるとすぐさま悪寒が押し寄せ、身じろぎする度に口からは咳が吐き出されて。  結局、水を諦めた僕はまた床の上に寝そべり、掛け布団の中で自分で自分を暖めるみたいにギュッと丸まって震えをやり過ごす。  朧気な頭の中に浮かぶ映像は、閉じたまぶたの裏に灯る映像は、大好きな将継(まさつぐ)さんが独占してしまっているようだ。  夢の中のキスが現実だったかのように唇がふわふわと温かいのは、身体が熱をもっているせいだとはわかるけれど、夢の中のように唇を塞いで欲しくて仕方がない。  離れようと、忘れようと、考えないようにしようと思えば思うほど鮮明に将継さんとの思い出ばかりが頭をよぎる。 (これ、水なきゃ死ぬ……)  一度は諦めたはずの水を身体が欲しがるけれど、どんなに動け!と念じても丸まったまま四肢は言うことをきいてはくれない。  やがて再び頭が朦朧とし始め、意識が白みがかっていくのがわかり(このまま死んじゃったりして……)と思うくらい身体が熱を持っていることに、胸が警鐘(けいしょう)を鳴らす。  いよいよ意識を手放そうとした瞬間、玄関扉の向こうでガチャガチャとドアノブを回す音が聴こえた気がして、(武川さんかな……起きなきゃ……)と思うけれど、半ば失神に近い勢いで散って行く意識に抗えない。 (もしも願いが叶うなら……)  ――幻でもいいから、将継さんじゃないかな……。  叶わぬ祈りを、存在なんかしてくれないんじゃないかと思うほど無情な神様に捧げながら、僕の意識は急速に白く塗りつぶされていった――。
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