46.謝るべきなのは私のほうだろ?【Side:長谷川 将継】

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46.謝るべきなのは私のほうだろ?【Side:長谷川 将継】

 武川(たけかわ)への尋問(じんもん)を終えた私は、相良(さがら)の車の後部シートに深く身体を沈めてはぁーと吐息を落とした。  すぐそこのスライドドアは大きく開いたままだ。  あんなに降っていた雨はいつの間にかやんでいて、名残(なごり)を刻むみたいにそこかしこに水たまりを作っていた。  それを避けるようにして、相良が車のすぐそばへ立っている。 「……なぁ相良よ」  ポツンと独り言のようにつぶやいた言葉に、紫煙をくゆらせながら、相良が「んー?」と応じてくれる。  相良の呼気が掛かったのだろう。  ゆらゆらと真っ直ぐ立ち上っていた煙が、不意に左右へぐらりと揺れた。 「このまま久留米(くるめ)とか言う臨床心理士のいる病院へ乗り込むとか……」 「バーカ。ダメに決まってんだろ。今行っても奴はいねーぞ? 長谷川(はせがわ)、気持ちは分かるが……ちぃーと頭、冷やせや」  ふぅーと煙を吐き出しながら苦笑まじり。  相良が私を横目に見ながら投げ掛けた言葉に、またしても大きく吐息がこぼれてしまう。 (じゃあ、私のこのどうしようもない怒りは、一体どこへぶつければ良いというのだろう?)  不幸中の幸いと言うべきか。  武川は、深月(みづき)をまだ犯してはいなかった。  だが、それに匹敵するような苦しみを与えたのは事実で――。  口でさせてたら吐いた。汚くて途中でやめた……と途切れ途切れに白状した武川に、私の怒りは臨界点を越えたのだ。  実際のところ、相良が止めてくれていなかったら、私は武川を殴り殺していたかも知れない。  右手の甲――掌頭(けんとう)付近に血がにじんでいるのは、壁を殴ったときにやった傷口が、今し方武川を力任せに殴った際、再度開いたものだ。  それ以外にも新たな傷が出来ていることからも、相当力任せに武川を殴り付けたことが分かる。  あのとき――。
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