679人が本棚に入れています
本棚に追加
/375ページ
46.謝るべきなのは私のほうだろ?【Side:長谷川 将継】
武川への尋問を終えた私は、相良の車の後部シートに深く身体を沈めてはぁーと吐息を落とした。
すぐそこのスライドドアは大きく開いたままだ。
あんなに降っていた雨はいつの間にかやんでいて、名残を刻むみたいにそこかしこに水たまりを作っていた。
それを避けるようにして、相良が車のすぐそばへ立っている。
「……なぁ相良よ」
ポツンと独り言のようにつぶやいた言葉に、紫煙をくゆらせながら、相良が「んー?」と応じてくれる。
相良の呼気が掛かったのだろう。
ゆらゆらと真っ直ぐ立ち上っていた煙が、不意に左右へぐらりと揺れた。
「このまま久留米とか言う臨床心理士のいる病院へ乗り込むとか……」
「バーカ。ダメに決まってんだろ。今行っても奴はいねーぞ? 長谷川、気持ちは分かるが……ちぃーと頭、冷やせや」
ふぅーと煙を吐き出しながら苦笑まじり。
相良が私を横目に見ながら投げ掛けた言葉に、またしても大きく吐息がこぼれてしまう。
(じゃあ、私のこのどうしようもない怒りは、一体どこへぶつければ良いというのだろう?)
不幸中の幸いと言うべきか。
武川は、深月をまだ犯してはいなかった。
だが、それに匹敵するような苦しみを与えたのは事実で――。
口でさせてたら吐いた。汚くて途中でやめた……と途切れ途切れに白状した武川に、私の怒りは臨界点を越えたのだ。
実際のところ、相良が止めてくれていなかったら、私は武川を殴り殺していたかも知れない。
右手の甲――掌頭付近に血がにじんでいるのは、壁を殴ったときにやった傷口が、今し方武川を力任せに殴った際、再度開いたものだ。
それ以外にも新たな傷が出来ていることからも、相当力任せに武川を殴り付けたことが分かる。
あのとき――。
最初のコメントを投稿しよう!