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自分の中に渦巻く激情のまま、私は止めに入ってくれた相良まで殴りそうになった。
それほどまでに怒りで逆上してしまっていたのだが、自分たちのボスにまで危害を加えようとした私を取り押さえようと動いた部下たち二人を、相良が「動くんじゃねぇ!」と一蹴して。
武川へ向けて何度も何度も……。
訳も分からず振り下ろし続けていた右手を相良に制されたまま、地を這うような相良の声音を耳にしてやっと、私はハッと我に返ったのだ。
「……すまん」
邪魔立てする相良ごと叩きのめしてやろうという勢いで力を込めていた私の腕から覇気が抜けたのを察した相良が、そのままグイッと掴んでいた腕を引いて私を立たせると、ポンポンと背中を叩いてくる。
「謝るこたぁーねぇーよ」
まるで落ち着けとなだめられているような、よく堪えたと褒められているような、何だかよく分からない感情に支配されて、私はもう一方の手で相良の胸を押し戻すようにして彼から離れた。
相良がすぐそばに控えていた男たちに何事かを指示しているのを聞くとはなしに聞きながら、私はぼんやりとその場に立ち尽くしている。
私たちがこうしている今も、深月はひとりで震えているかも知れない。
そう思ったら、居た堪れない気持ちになった。
だが――。
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