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武川の口から出た、深月の通う精神科の担当者名に、心がざわついて落ち着かなくなったのは何故だろう。
(そもそもそいつはカウンセリングすんのが仕事じゃねぇのかよ。患者苦しめてどうすんだよ!)
今すぐにでも向かうべきは深月の元だと頭では分かっているのに、久留米とか言う男のことを野放しにしておくのは良くないことだとも思えてしまう。
(久留米は危険だ)
きっと、久留米は深月を恋愛対象として見ている。
それだけならまだしも、卑劣な方法で深月を手中に収めようとしている。
(深月が私の元へ戻ろうとしなかった理由は、恐らくそっち側にある)
武川は多分それに便乗しただけだ。
久留米のやり口が、まるで狩りを楽しむ狡猾な獣のように感じられるから。
私は気持ちがざわついて堪らないのだ。
そのせいだろうか。
久留米の捕縛と深月の安全確保。
どちらを優先すべきなのか、頭が混乱していた。
「あんなぁ、長谷川。ゴチャゴチャ考えてるみてぇーだが、深月ちゃんの通ってる病院も、深月ちゃんを苦しめてる担当者の名も分かってんだ。そんな現状でお前が優先すべきことは何だ? どーでもいい人間の顔見に行くことか? 違うだろ!」
そこでふぅーっと長く煙を吐き出して、相良が続けるのだ。
「そんなんはお前じゃなくても出来んだよ。――迷った時はお前じゃなきゃ出来ねぇことを優先的に済ましちまえ。頭のいいお前のこった。んなこたぁー俺に言われなくても分かってんだろ?」
相良は、武川が口を割る前から深月の通う病院の名が『常磐病院』だと突き止めていて。
尚かつ深月を苦しめているのが主治医ではなくカウンセリングを担当している臨床心理士の男だと言うのも調べ上げていた。
その上で、相良がそっちは後回しで構わないと判断したのなら、私が優先すべきはきっと――。
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