693人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ、食えねぇモンとかあるか?」
と言っても、咲江に先立たれて以来基本的に外食ばかりだ。
大した食材があるわけじゃないが、まぁそこそこに日持ちのする豆腐やウインナーやチーズ、練り物くらいは冷蔵庫の中に常備してある。
(どれも酒のつまみになるモンばっかだがな)
ビールや日本酒は常に潤沢にストックがあって、フードストッカーの中にはジャガイモが一個と玉ねぎが二玉、それから味付け海苔が入れてあったな、と即座に思い浮かべる。
フルフルと首を横に振る深月の頭を「好き嫌いがないのはいい事だ」と、くしゃりと撫でると、
「ま、偉そうなこと言っちまったけどな。……実はあんまし食料自体がねぇんだわ。卵焼きと根菜の味噌汁。ウインナーを焼いた程度になるけど……幸い飯は炊きたてだ。礼がしたいってんならおじさんの味気ない一人ぼっちの朝飯に、付き合え」
ニヤリと笑ってフライパンを取り出したら、深月がただ座っていることが落ち着かないのか、所在なさそうにソワソワする。
「あー、そうだ。やることねぇならちょっとこれ……」
言って炊飯器のふたを開けると、炊き立ての飯の匂いと熱々の蒸気が顔を覆った。
一気にレンズが曇って視界を奪われた私は、小さく吐息を落として眼鏡を外す。
常に眼鏡はかけているけれど、別に視力が悪いわけではない。
人よりやや色素が薄めな私の瞳は、どうも紫外線に弱いらしく、眼科から眼鏡で保護するように言われているのだ。
眼鏡を片手に握り込んだまま、高坏になったステンレス製の仏飯器にセットする内側の器──落としに炊き立ての飯を盛ると、持ち手の部分を深月に向けて差し出した。
「私が寝てた部屋、分かるか? あそこに仏壇があるんだけどさ、コレ、供えといてもらえる? ど真ん中あたりに高坏になったステンレス製の容器があるからそん中にセットしてもらえりゃーいい」
目の前に突き出されたから思わず手に取ってはみたものの、どうしたらよいのか分からないという顔をする深月に、(いきなりお供え頼むのはハードルが高かったか?)と思って。
最初のコメントを投稿しよう!