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気が付けば空が少しずつ白んできていて。
ふと存在を忘れていたけれど、運転席に座っている石矢はどこまでも無言でおとなしかった。
「あー、マジでこの歳んなって徹夜すっと堪えるな?」
相良が、紫苑色と東雲色の混ざり合った空を見上げてククッと笑う。
「だな」
そう私が答えたと同時。
相良は手にしていたタバコを携帯灰皿に捩じ込むと、後部シート側のドアからグイッと身を乗り出すようにして運転席の石矢に声を掛けた。
「なぁ石矢。テメェは今日、自分が何でここへ連れてこられたか、分かったよな?」
相良が石矢に問いかけると、石矢は「はい」と頷いた。
私にはその意味が分からなかったのだけれど。
「おい、相良。今のってどういう……」
――意味だ?と続けようとしたら、
「いずれ久留米ってヤローと対峙すりゃぁ分かる」
相良はそう言って、私にはそれ以上詳しくは語らなかった。
「さて。んじゃ、そろそろ移動すっか」
倉庫に残してきた武川のことは部下が何とかすると告げて、相良が私の横へ乗り込んできて。
石矢との間では、次の行き先についても最初から何か話がついていたのだろうか。
何も指示されなくても、石矢が車を発進させた。
「おい、相良。どこへ――」
思わず問い掛けたら、「決まってんだろ。お姫様を救出しに行くんだよ」と笑われた。
どうやら、今度こそ深月のアパートへ向かうらしい。
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