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壁一枚隔てた向こう側に深月がいるかも知れないのに、こんなところで悠長にしている暇はないんだ!と相良を睨みつけたら、石矢が「どうぞ」と目の前に鍵を差し出してきた。
「この部屋の鍵、下のポストに入ってたんだよ」
茫然と鍵を受け取った私を見て、相良が腕を解いてくれて吐息を落とす。
「鍵取って上がんぞ?って言おうとしたらお前、話も聞かずにどんどん行っちまうから……。逆に時間食っちまっただろーが」
苦笑まじりに言われて、私は「すまん」と謝罪した。
深月はいつも鍵を下の郵便ポストに忍ばせる癖があったらしい。
相良はそう言うのも調査済みだったと話してくれたのだが、考えてみたら結構怖い。
相良を敵に回すのだけは勘弁願いたいなと思ったりもしたのだが、正直今はそんなことどうでもいい。
受け取った鍵を使って玄関ドアを開けた私は、部屋の中を一瞥して――。
「深月!? おい、嘘だろ、深月っ!」
床に倒れた深月を見つけて、心臓が止まりそうになった。
深月の姿と、咲江が倒れた時とが重なって見えたからだ。
背後で相良が救急車を手配する声を聞くとはなしに聞きながら、腕の中へ抱きしめた深月が「将、継さ……、ごめ、なさ……」と涙を落とすのをただ茫然と見詰めて。
何で深月が私に謝るんだ?
謝るのは……来るのが遅くなっちまった私のほうだろ……?
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