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47.許されるなら【Side:十六夜 深月】
また夢だろうか、もう二度と会えないはずの将継さんが僕を抱きしめて、「深月!」と名前を呼んでくれた。
さっき見た夢よりももっとクリアで、将継さんの声も、そばにいるだけで伝わる心地よい気配も、鼻腔をふわりとくすぐる薫香も、全てが鮮明で。
僕の口からは自然と「将継さん、ごめんなさい」と、裏切ってしまったことへの謝罪の言葉がこぼれ落ちたのだけれど、彼の返事は聴こえなかった。
***
重いまぶたは、まだ泥濘に浸かりたいと意思に反して開くのを拒もうとするけれど、頭が『起きろ』と指示を出し、ゆっくり視界が拓ける。
目に飛び込んできたのは自宅の煤けた天井ではなくて、長いこと暗闇の中にいた瞳に染み入るような真っ白な眩しさだった。
――と、同時に。
「将……継……さん……?」
ベッドのそば、丸椅子に座った将継さんが僕の頭のすぐ横でうつ伏せて小さく寝息を立てていて(なんで……?)と、頭が現状に追いつかない。
左腕を見たら点滴の針が刺さっていて、ここが病院であることはわかったけれど、やけに立派な個室に僕は眠らされていたようだ。
まだ身体が熱を持っていて、ゴホゴホと咳が吐き出されるけれど、それより何よりどうして僕は病院に――将継さんがそばにいるんだろう。
「将継さん……」
どういう経緯なのかはわからないけれど、僕は彼に助けられて、今こうして無事に目を覚ましたことは間違いない。
(また会えた……)
それだけで感極まりそうになって、いつも彼が僕にしてくれるように、色素の薄い瞳と同色の髪の毛に指を差し込んで梳いてみる。
掛け値なしで感謝の気持ちでいっぱいになると共に、目を覚ました将継さんは怒るだろうか……と不安になってきて。
髪に触れたせいか、将継さんが身じろいで「……深月?」と声が掛かるから、僕は咄嗟に目をギュッと瞑って寝たフリをしてみるけれど――。
頬を軽く摘まれながら、「コラ」と優しい声が降り注いで、「目ぇ開けてくんね? 深月。会いたい」と囁かれれば閉じたまぶたから涙がこぼれる。
「……おはよう、ございます……将継さ……ん」
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