47.許されるなら【Side:十六夜 深月】

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 のろのろと半身を起こしたらすぐにギュッと抱きしめられて、「深月(みづき)、マジでごめん」と耳孔に含めるように謝られるから。 「な、んで……将継(まさつぐ)さんが、謝るん、ですか?」 「私が深月からのSOSに気付けなかったせいで辛い思いさせちまった。嫌いになれってなんだよ。前に言わなかったか? 深月を嫌いになれる方法があんなら教えてくれって。雨にでも打たれたのか? 肺炎になる一歩手前で脱水起こしてたんだぞ? ――私が守れなかったせいで……」 「ち、違……いますっ。風邪ひいたのは、自分のせいで……。嫌いになって、くださいって言ったのも……本当です……。僕、もう……将継さんの、そばにいられないから……」 (――なのに……なんで、こんなに近くにいるんだろう……なんで、こんなに嬉しいんだろう……)  口では『嫌いになって』とこぼしながら、両腕は勝手に抱きしめてくれる将継さんの背に縋ってしまって、点滴スタンドがカシャンと音を立てて動いた。  僕の肩に顎を載せた将継さんが、「――なぁ、深月ん中ではもう終わったのか? 本気で言ってんの? そんな簡単に恋人は解消されちまうのか?」と畳み掛けるから。  顔は見られていないけれど、ぐすっと鼻を(すす)ってしまって、泣いていることがバレバレで、本心じゃないこともきっとバレバレで。 (でも……何も言えない……)  僕がそばにいたら、将継さんは僕のために犠牲になろうとしてくれるに決まっているから、迷惑をかけちゃいけない。  なのに――。 「なぁ、なんで泣いてんの? 深月はもう私を嫌いになったから、こんな風に抱きしめられるのも嫌?」 「……っ」 「キスしていい?」 「風邪……感染(うつ)る、から……」 「関係ない」  荒々しく奪われた唇は冷えきっていたのだろうか、将継さんの体温がやけに熱いのは、心が冷えきっていたからだろうか。    (そばにいたい……)
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