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「何がわかんねぇのか言ってみ?」
しゃくり上げる僕の頭を胸に埋めた将継さんの言葉は、キスで融かされた心の前では、もはや抗えそうにもない。
「駄目、なんで、す……一緒にいたら、駄目なんです……」
懸命に、散り散りになっている理性を何とか掻き集めて彼を遠ざけようとしてみても、僕の後頭部を押さえ込んでいる手のひらが力強くて敵う気がしなくて。
「深月がさ、それ――自分の意思で言ってんじゃねぇーこたぁ、もうわかってんだわ」
「……え?」
胸元でくぐもった声を出すと、将継さんは後頭部を押さえ込む手のひらにますます力を込めて、それは何か怒りの感情のようにも思えた。
「病院に行った途端もう会えないなんて、どう考えてもおかしいだろ。そう言わされてるんだろ? ――違うか?」
「……それは……」
(どうしよう……このままじゃバレる……)
「ま、将継さんは、なんで……僕の家とか、知ってた、んですか?」
必死に話題を逸らそうとしたら、「それはいま関係ない。私の質問に答えてくれないか?」と制されるから。
「離れなきゃ、いけないんです……。将継さんのために、離れなきゃいけない、んです……。僕といたら、将継さんが……」
「私が、なんだ?」
「……」
黙りこくってしまった僕に将継さんは小さく吐息を落として、それから噛んで含めるように、ゆっくりと喋り始めた。
「石矢の件があったから出来ればアイツの存在は深月には知られたくなかったんだが……協力者になってくれてる奴がいる。深月は私のことで何か脅されてんのかもしんねぇーけど、武器がある。だから、私のことは庇ってくれなくても大丈夫だから。――深月の本当の気持ちを教えてくれないか? 私のこと、嫌いになっちまったのか?」
(嫌いになれたら……どんなに楽だろう……)
ぽとり、また涙が落ちて、将継さんは両頬を拭き取るように両手で頬を覆ってくれるけれど、瞳の奥の防波堤は決壊してしまったかのように波を立て続ける。
「なぁ、深月。ちゃんと本当の気持ちを教えて? 到底納得できねぇーんだ」
「……僕は……将継さんのこと……」
向けられる真摯な瞳が痛い。
胸の奥を、心臓を直接握りつぶされているようだ。
(もう、嘘が吐けない……)
「……好き、です……」
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