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好きだと言ったら、すぐに再び抱きしめられたと同時に唇を吸われたけれど、先程の情動的なキスとは違って、優しく啄んで離れていった。
「……ん」
「はぁー、マジで安心した。深月に『もう嫌いです』なんて言われたら立ち直れねぇーから。――私たち、ちゃんと恋人だよな? そう思ったんでいい?」
「……裏切ったのに、恋人で、いてくれる、んですか?」
怖々と訊ねたら、将継さんは、心底安堵したように吐息を落として、それと同時、ゴホゴホと咳を吐き出したら優しく背を擦ってくれる。
「何を裏切ったんだ? 深月を手放す気なんてさらさらねぇよ。言っとくけどな……私は惚れた相手を簡単に逃せるほど心が広くねぇんだわ。深月が私を嫌いって言ったって、また好きにさせてみせる。絶対放さねぇから。執念深いって呆れるか?」
フルフルと首を左右に振ったら、僕の口からも自然と「嫌いに……なれたら……、将継さんに、迷惑かけなくても、済むのに……好き……です。ごめんなさい……」と剥き出しの本音がこぼれる。
「なんで謝るんだよ?」
「こんな……個室に入れてもらったり……たくさん迷惑かけて、ごめんなさい……。本当は、来月までに、将継さんと離れなきゃ、いけないんです……。ちゃんと会って、もう会えないって言いたかった……けど、あんなメッセージで済ませようとして、ごめんなさい……」
言ったら、将継さんは床頭台に置かれていた僕のスマートフォン(なんで将継さんが持ってるんだろう?)を手渡してくれた。
「あんなメッセージは取り消してくれるか? 来月までに離れろ? そんなん知ったこっちゃあねぇよ。――頼むから、離れないでくれ。深月がそばにいてくれねぇと、どうやら私は腑抜けちまうらしいってのがよーくわかった」
僕は、渡されたスマートフォンを操作して将継さんにメッセージを送ってみたら、それに気付いた彼は自分の携帯を取り出し画面を見つめて、すぐに口の端を綻ばせた。
『許されるなら、将継さんのそばにずっといたいです』
そう送ったメッセージを見て、将継さんは僕を抱きしめて「バーカ。口で言えよ。深月のことは俺が必ず守る。なんも心配しなくていいから、まずはしっかり身体治せ。込み入った話は後だ。深月との時間はこれからもたくさんあるんだから。――そうだろ?」と囁いた。
「……将継さん……ワガママ、言っていいですか?」
「うん?」
「風邪治ったら……、また、将継さんの家に、帰ってもいいですか……?」
琥珀色の瞳を覗き込んだら、「もう引き払っちまえよ、深月ん家。ずっと私のそばにいろ」と、ニッと笑って。
鼻の頭に落とされたキスに、つんと鼻の奥が痛んだ。
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