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相良さんが去っていって、『将継さんが一番素敵です』と答えたら、彼は嬉々として僕の食事を再開した。
うどんは途中で満腹になってしまって、将継さんが勧めてくれるけれど、申し訳なく思いつつも断ったら、彼はデザートに添えられていた半分にカットされたバナナの皮を剥いてくれて。
「深月、ほら、デザート。あーん?」
何だかさっきから凄く甘やかされていて、恥ずかしくて仕方がないけれど、それでも折角の厚意なのだから口を小さく開いてバナナをぱくりと咥えたら――。
将継さんがそこで固まって僕を凝視してくるので、バナナを咥えたまま「将継さん?」と声を掛けたら彼は手のひらで顔面を覆って、はぁーと溜め息を吐いた。
「私は病人相手に何考えてんだ、マジで……」
何か独り言のようにぶつぶつと呟いているので、(どうしたんだろう?)と、バナナを咥えたまま将継さんをじっと見つめていると。
「――その顔、反則」
「……んっ!?」
彼は突然、僕の口からはみ出しているバナナに齧り付いてきて、二人の唇の狭間でくちゃりとバナナがちぎれて。
自分の口の中に収まった分を奥歯で緩く咀嚼すると、将継さんの口腔に収まった分を熱い舌と共に僕の咥内に捩じ込まれる。
「ん……っ、む」
思わず将継さんの舌ごと緩く噛んでしまうと、彼はハッとしたように唇を離して、汚れた唇を舌で拭ってくれたので、僕は口の中に押し詰められたバナナを全て咀嚼して飲み込んだ。
「ま、将継さん……どうしたんですか? バナナ……食べたかった……ですか?」
問うと、将継さんは何だかばつの悪そうな顔をして「あー……」と呻きながら自らの髪の毛をガシガシと掻き始めた。
「将継さん……?」
「すまん……バナナ咥えた深月が反則過ぎた」
その言葉の意味をじわじわと理解して、僕は耳まで真っ赤になって俯いてしまうと、顎を掴まれて上向かされ、啄むように口付けられる。
「深月ロスになってたから歯止めが効かなくなっちまってるみてぇだ」
「ロスって……一日だったじゃないです、か……」
言ったら、「バーカ。深月と会えない夜は長すぎたんだよ」と囁かれるから、「……僕も、です」と、溢れた幸福な気持ちに全身を浸した。
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