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――なぁ、深月。マジで部屋解約しねぇ?
それは、昨夜面会時間ギリギリまでそばにいてくれた将継さんが、帰り際に真剣に放った言葉だった。
いくら恋人になって、ずっとそばにいたいからと言って、さすがに無一文に近い状態で厄介になり続けていいのだろうかと逡巡したのだけれど。
『恋人になったんだから、同棲したっておかしくねぇだろ? まして深月は私より十一も年下だ。甲斐性がある方に甘えていいと思わね? 世の中には専業主婦っちゅー言葉もあんだから。もう深月をあの部屋に一人で戻すようなことになって欲しくねぇーんだ』
そう畳み掛けられてしまえば、恋人になった将継さんのそばにいたい気持ちは抗えようもない渇求であって、僕ももうあの部屋に一人で帰る気持ちはなくなっていて。
先程看護師に起こされて点滴を刺されてから、一人でぐるぐると考えを巡らせていたのだけれど、僕は気付けばスマートフォンを手に取って母さんの連絡先を表示させていた。
『もしもし? 深月?』
すぐに電話に出た母さんの声は一ヶ月ぶりくらいか。
毎月生存確認に月一で連絡が来るのだけれど、僕から連絡をしたのは初めてかもしれない。
「母さん、元気?」
『うん、元気。深月から連絡寄こすなんてどうしたの? 何かあった?』
僕は大きく息を吸って、それから吐き出して、この数日間のおもちゃ箱をひっくり返したようにごちゃごちゃと散らばった一連の出来事を頭の中で整理する。
「頼みたいことがあるんだけど……、僕のアパート解約してくれないかな? 引っ越したいんだ。母さん名義だからさ」
『引っ越すって……実家に戻るつもり?』
その言葉に思わず、今も母さんのそばにいるであろう義父の忌々しい顔や、与えられた仕打ちが脳裏に蘇って吐き気がした。
「冗談でもそんなこと言わないでよ。……恋人が出来て、同棲したいと思ってる。だから、部屋を解約して欲しくて」
『恋人!? だって深月……病気は? それに同棲って、定職にでも就けたの?』
至極当然の疑問に僕は小さく吐息を落としたけれど、将継さんを好きになってしまった以上、もう何も隠せないと思った――。
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突発的にスタ特をupしました!
https://estar.jp/extra_novels/26218417
本編の将継さんがアレ(笑)なので確信に迫ります。
一ページですのでお時間のある方お付き合いください。
(本編に☆一つで読めます)
鷹槻羽那×ちろる
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