49.ただいま【Side:十六夜 深月】

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「病気は……恋人が治してくれた。年上の人で、一緒に住もうって言ってくれてて……仕事はそれから探すつもり」 『年上のお嬢さんが養ってくれるってこと? 大丈夫なの? 深月(みづき)は世間知らずだから騙されてたりしない?』 「……ごめん。年上の……男性なんだ。長谷川(はせがわ)将継(まさつぐ)さんって言って、十一歳年上で建設会社の社長をしてる。僕が居酒屋で酔いつぶれて倒れた時に介抱してくれて……色々あって恋人になった。一緒に住もうって言ってくれてて。だから部屋を出たい」  包み隠さずに将継さんの存在を告げたら、母さんが一瞬ひゅっと息を詰めるのがわかって、僕も思わず唾を飲み込む。 『長谷川って……あの長谷川建設さん? 本気で言ってるの? だって深月は男性と恋愛なんてありえないじゃない。お義父さんとのことがトラウマになって病院通いしてるのに……』 「僕も最初は戸惑ったけど……好きなんだ、彼が。僕の孤独を埋めてくれた。今まで生きてきて、初めてこんなに人を好きになった。こんなに幸せになれたこと一度もなかった。凄く大好きで、大切で……ずっと一緒にいたい」  電話の向こうで母さんがグスッと鼻を(すす)る音が聴こえて、(酷い親不孝だ……)と申し訳ない気持ちでいっぱいになるけれど、嘘は吐けない。 『――本気なのね? 本当に彼も深月もちゃんと愛し合ってて、お互いのことを真剣に考えてるのね? そんな歳の離れた立派な方、深月でいいのか母さん心配だけど……深月の気持ちに迷いはない?』 「迷いはない。僕は、将継さんのそばにいたい。僕だって、立派な彼に釣り合えてる自信はないけど、それでもそばにいてくれるって、守ってくれてる。凄く、嬉しいんだ。将継さんと出会ってから……僕は変われた。投げやりに生きてきたけど、誰かのために生きたいって思った。――だから、母さんには本当に申し訳ないって思ってるけど……将継さんとのことを認めて欲しい」  電話口で、母さんが絶えず鼻を啜るから、酷く胸が切なくなって、思わず「ごめん。男同士だったら間違いだよね……」と謝罪の言葉がこぼれる。  どんな反対も、男同士だという弊害も、乗り越えられるかわからないけれど、でも――。 『……ごめんじゃないでしょ?』  母さんは、静かにそう囁いた。
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