49.ただいま【Side:十六夜 深月】

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「……え?」 『深月(みづき)が何かを欲しがるなんて初めてじゃない。お義父さんと別れることも出来なくて、ずっと辛い思いさせてたって、母さん悲しくて……深月に申し訳なかった。でも、深月がやっと幸せになれるんだって思ったら……嬉しくて。反対なんかするわけないでしょ? 男同士だから正しい、間違いじゃない。間違いか正しいかを決める権利は他人じゃなくて自分にあるの。深月が決めたんなら自分にとって正解なんだからね?』 「僕はずっと一人だと思ってた。でも……将継(まさつぐ)さんがそばにいてくれて幸せで。本当にいい? 母さんの外聞(がいぶん)を悪くしない?」 『いいに決まってるでしょ? アパートは解約する。母さんが片付けておくから必要なものだけ持って出なさい。母さんも今度、長谷川(はせがわ)さんに挨拶に行ってもいい?』 「うん……。僕、ちゃんと幸せになるから。本当にありがとう。……親不孝でごめん」 『親孝行でしょ! 深月の幸せが母さんの幸せなんだから。また連絡するから、長谷川さんによろしくお伝えして?』  それだけ言って切れた電話をぼんやりと見つめて、手に入れたばかりの幸せを伝えたくて、仕事中の将継さんにメッセージを送った。 『将継さん。母さんが僕たちのこと、引っ越しのこと許してくれました。将継さんにも今度挨拶したいって言ってくれてます。会ってもらえますか? 本当にそばにいるのが僕でいいですか?』  すぐに、メッセージが〝既読〟になる。 『深月以外はいらない。お母さんのことも深月が真剣にケジメをつけてくれて嬉しい。もちろん挨拶したい。大事な深月をもらうんだから。何があっても私が幸せにする』  ストレートな彼の想いがありったけ伝わってくる文章がくすぐったくて、スマートフォンを握りしめたら、指先から何かはらはらと希望が(したた)って。  ――将継さんとずっと一緒にいたい。  ただそれだけが、胸の中を埋めつくして、ただそれだけで呼吸が続いて、ただそれだけで僕はここにいていいんだって思えて。  僕の生きる場所は、将継さんのそばだけなんだ。
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