49.ただいま【Side:十六夜 深月】

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 持ってきた衣類を僕の部屋の箪笥(たんす)に入れさせてもらってリビングに戻ったら、将継(まさつぐ)さんはナマケモノのマグカップにコーヒーを淹れて待っていてくれた。 「深月(みづき)のは砂糖、四(さじ)入れといたから」 (あ……僕の砂糖の数……)  出会った日の、そんな些細なことを覚えてくれていたのが嬉しくて、我知らず口元がふにゃりと歪んでしまう。 「あ、ありがとう、ございます!」 「今日は深月の退院祝いに夕飯(ゆうめし)どっか食いに行こうか? 深月と初めて会った居酒屋とか? あ、それともまた深月の知らない私の知り合いに会うの嫌?」  その言葉に僕は思わず俯いて、のぼせたように顔が火照(ほて)っていることを自覚しながらも、マグカップを両手でギュッと握りしめた。 「……もう、嫌じゃないです。恋人……になったから、……大丈夫、です。僕だけの将継さん……です、よね?」 「もちろんだ。深月は、私だけの深月?」 「は、はい! 将継さんだけの……僕です」  言ったら、将継さんは途端に真剣な眼差しを僕に向けて、「でも、まだ手放しで喜べねぇーんだわ。このままだったら、来月に深月が離れちまう可能性が残ってんだから」と呟いた。 (そうだ……このままだったら将継さんは……) 「――なぁ、一応聞いとくけど。深月は何を脅されてんのか教えてくんねぇーか?」 (もう、隠しても無意味だな……) 「……先生に、将継さんと恋人になったって言いました。……病気も治ったって……。石矢(いしや)さんの暴力から守ってくれたことも……。でも、そしたら先生が……将継さんが、性的暴行と身体的暴行を僕にしたことにして通報するって……。恋敵(こいがたき)に容赦しないって……。僕が入院中、武川(たけかわ)さんが家に来てたかもしれません。僕を守って見張る……って言ってたから、将継さんのところに戻ったの先生に話しちゃってるかも……」 「……(おおむ)ね、の推察どおりっちゅーわけだな。取り敢えず、心配しなくても武川はもう深月の前に現れることはない」 「……え?」 (どうして将継さん、そんなこと知って……それに、そういえば武川さんが持っていたはずの僕のスマホも何で将継さんが持ってたんだろう……?)  「は犠牲になるつもりも、深月を手放すつもりもない。信じろ。――だから、必ずそばにいてくれ。深月の全部もまだもらってねぇし?」  訳がわからないなりにも、〝僕の全部〟に思わず赤面したら、将継さんはククッと笑いながら僕の頭を撫でて「何も心配しなくていいから、深月は安心してそばにいてくれ。飯食いに行こうな? 退院祝いだ。おかえり、深月」と瞳を(すが)めた。 (よくわからないけど、でも――)  「……はい。僕は将継さんのこと、信じます。これからもずっと、ただいま……しますね?」  その返事は、素早く掠め取られた唇に刻み込まされた。
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