06.餌付け【Side:長谷川 将継】

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「えっと……私は人との距離感をはかるのがどうも下手でね。もし……こんな風に触られたりするのが不快なら、遠慮なく言って?」  スッと深月(みづき)の頭から手を退けると、深月が一瞬だけ戸惑ったみたいに私の手を見詰めた。 「不快では……ない、と思い、ます。……多分」  そう言いながらも、やはり恐怖心は(ぬぐ)えないのだとその顔がありありと伝えてくるから。 (この子は、――それこそ私のような歳上の男に対して何かトラウマみたいなものを抱えてるんじゃないだろうか?)  根拠はないけれど、ふとそんな風に思って。 「嫌だって思ったら跳ねのけてもらって全然構わないからね? 私も不用意にはキミに触らないよう気を付けるけど……やらかした時は遠慮せず怒って?」  敢えて視線を合わせないように斜め上から見下ろすようにして言ったら、深月がコクッとうなずいた。 「――よし、じゃあ台所へ戻って飯作りの続きをしようか」  私は咲江(さきえ)の遺影に柔らかな笑みを向けてみせると、『上手く出来るか不安だけど……私なりに頑張ってみるから。どうか見守っていておくれ』と心の中で語りかけて、深月が立ち上がるのを待ってから、彼と一緒に仏間を後にした。 ***  甘めに味付けした出汁(だし)入りの卵焼き、玉ねぎと豆腐の味噌汁、ウインナーを焼いたもの、炊き立ての飯、そうして取って付けたように横へ添えた味付け海苔を前に、深月と二人「頂きます」をして朝食を食う。  久々に自分の席の前に誰かが座っているのを見て、私はそれだけで何だか心がホカホカと温かくなって。 「いいな、誰かと飯食うの」  味噌汁をすすったついで。  ほぅっと吐息を吐き出すようにそう呟いたら、深月が無言でこちらを見詰めてきた。  私と目が合うなり慌てて視線を逸らしてしまったけれど、それなりにこちらのことを気にしてくれているらしい様子に、自然と口の端に笑みが浮かぶ。
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