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50.今だけ許して、神様【Side:十六夜 深月】
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「長谷川社長、いらっしゃい。久しぶりだねぇ」
退院祝いだと、将継さんとタクシーで辿り着いたのは、僕たちが初めて出会った居酒屋で、暖簾をくぐるなり店主がすぐに将継さんに声を掛けた。
「親父っさん、久しぶり。なかなか顔を出せなくて悪かったね。ちょっと色々あって、外食に出る時間が無くて」
と――。
将継さんの後ろにぴたりとくっついている僕に気付いた店主が、おや?と目を瞬かせて「あれ? キミは確か……」と声を掛けてきた。
「こ、こんばんは。あ、あの、先日は店内で倒れて……ご迷惑、お掛けしました……」
ぺこりと頭を下げると、店主は「どうして長谷川社長と彼が?」と将継さんの顔を窺った。
「ああ……。あれから訳あって、彼と……深月と一緒に暮らすことになってね。深月が今日まで入院してて、退院祝いに出会った店で飲もうって話になって」
コートをハンガーに掛けながら将継さんがそう説明すると、店主は特に邪推する様子もなく、「深月くんって言うんだね? 退院おめでとう。そういうことならサービスさせてもらうよ」と屈託なく微笑んでくれた。
「あ、ありがとう、ございます……」
あの時の僕は現実逃避的に入った店で、ましてビールだけで朦朧としていたからよく店内を把握していなかったけど、カウンター席が五つと、四人掛けのテーブル席が三つあって。
将継さんは「深月とゆっくり話したいからテーブル席に通してもらっていいかな?」と店主に告げると、快く了承してくれて、三人のバイトの女の子の一人が少しだけ陰になったテーブル席に僕たちを案内してくれた。
「長谷川社長は日本酒の辛口ですよね? キミは?」
「あ、あの……僕は、ビールで……」
しどろもどろに伝えると彼女は「かしこまりましたー」と嬉々として厨房に戻っていき、将継さんと二人きりになると、彼はどこか感慨深そうに僕を見つめてきた。
「ここに深月が来なかったら、私たち出会えてなかったんだよな。また一緒に来れるなんて夢みてぇだ」
「ま、将継さんは、どうして僕を助けてくれたんですか?」
「んー、そんなん……一目惚れっちゅーやつ? あわよくば深月とお近付きになれねぇかな、と思って?」
ククッと笑う将継さんに僕は耳まで真っ赤にしつつも、「僕も、将継さんを初めて見た、時……素敵な人だなって思いました……」と告げると、彼はテーブルの上の僕の手をギュッと握りしめてきたので、そっと握り返したら「あんまおだてんな。愛してるって言いたくなっちまう」なんて言い始めるから。
「……もう言ってるじゃ、ないですか」
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すみません。
ただいま将継Side担当の鷹槻羽那。
https://estar.jp/comments/65917476
……の事情(コンテスト応募作の締め切り間近)で多忙なため、深月ターンがもう一度、そしてしばらく(4/23まで)続きます。
将継ターンを楽しみにして下さっている皆様には申し訳ありませんが、しばらく深月ターンにお付き合い頂けましたら幸いです💦
鷹槻羽那×ちろる
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